宇宙のひみつを解くかぎに

Q ダークマターとは?

A 宇宙にくまなく存在すると推定されるが、正体は不明

解説者 瀧澤美奈子(科学ジャーナリスト)

「大切なものは目に見えない」とは、フランスの作家サンテグジュペリの『星の王子さま』に出てくる名言です。宇宙もこの通りかもしれません。

宇宙というと、惑星や恒星、それらが集まった銀河を想像するでしょう。銀河の集まりである銀河団や、その集まりである超銀河団という大きな構造もあり、大型の天体望遠鏡で観測されています。

しかし、これらの天体など私たちが「物質」と呼んでいるものは、宇宙全体のわずか5%ほどにすぎません。残りは宇宙をふくらませるダークエネルギー(約69%)などとダークマター(約26%)で構成されています。

ダークマターは目には見えませんが、「質量はある」と分かっています。最初にその証拠を見つけたのは1933年、天文学者のフリッツ・ツビッキーさん。銀河団の観測で、銀河の回転速度が予想より速く、観測できる物質の質量だけでは万有引力で説明できないと気づき、「見えない物質がある」と提唱しました。

その後、個々の銀河などの観測からもダークマターの証拠が得られました。私たちの周囲にもあると思われますが、正体はなぞのままです。

Q 正体が分かるとどうなる?

A 宇宙の成り立ちの解明や、物理学の発展につながる

解説者 瀧澤美奈子(科学ジャーナリスト)

ダークマターの正体は、宇宙の構造を説明する「宇宙モデル」に大きく影響します。また、自然界に存在する分子や原子よりも小さいつぶ(素粒子)を研究する素粒子物理学にも関係します。新たな素粒子や物理法則が見つかる可能性があるのです。現在の理論は完全ではないことが分かっているため、その未解決問題を解く手がかりになりそうです。正体が分かれば、ノーベル賞級の発見になるといわれています。

ダークマターの正体は複数の候補があり、さまざまな手法で探されています。例えばダークマターが原子核や電子といった小さなつぶとぶつかるとき、わずかに発生するかもしれない光や熱などを見つける方法、ニュートリノなどの宇宙線が示す反応から見つける方法、加速器という装置でダークマターが生じる可能性がある条件をつくって見つける方法などです。

他にもいろいろなアイデアがあります。「量子センシング」という手法でダークマターを見つけようと挑戦する東京大学大学院助教の青木貴稔さんは、測定に必要な高感度磁力計の開発に成功しています。この磁力計は近い将来、医療機器にも応用される見こみです。大きな挑戦は、予想外の技術革新につながることも魅力です。

おおぐま座にあるうずまき銀河 国立天文台提供

最近のNEWS

「すばる望遠鏡」に新しい観測装置

すばる望遠鏡にとりつけられたPFSの「主焦点装置」 PFS project提供

宇宙を観測することで、ダークマターの性質を知ろうとする研究も進んでいます。

日本を中心とした7か国・地域の国際共同研究チームは、アメリカのハワイ島の山頂にある日本の「すばる望遠鏡」に新しい観測装置をとりつけました。3月から本格的な観測を始めます。

観測装置は「超広視野多天体分光器」(PFS)というもので、最大2400個の天体からの光を同時に調べられます。

ダークマターの重力によって銀河が誕生したと考えられているため、詳しく調べることで宇宙が形づくられる段階におけるダークマターの役割などが分かりそうです。

アメリカ・ハワイ島マウナケア山頂にある「すばる望遠鏡」 国立天文台提供

解説者
瀧澤美奈子
科学ジャーナリスト

(朝日小学生新聞2025年3月14日)