おばあちゃんが、桜の木の下で犬のクロと遊んだ思い出を語る場面 文研出版提供

満州で愛犬となみだの別れ

絵本の名前は『さくらが さいた』。桜が満開の土手道をおばあちゃんと散歩していた女の子のもとに、真っ黒な犬がかけよってきました。だれかが飼っている犬です。おばあちゃんは、ずっと昔に旧満州の大連で飼っていた犬のクロを思い出しました。その犬にそっくりだったからです。戦争が終わり、日本に引きあげるときに別れた犬でした。

「このお話はもう30年くらい、書いたり消したり、主人公を変えたりしてきました」とあまんさんは話します。

戦後80年にあわせて新作を発表した、あまんきみこさん=2月、京都府長岡京市

あまんさんは子どものころ、大連で中型犬のセッターを2匹飼っていました。あまんさんと「同い年」のレオと、若いロン。「2匹とも人なつこい犬でした。私がまたがって、庭でいっしょに遊びました。友だちのようでした」

戦争がはげしくなると「犬を2匹飼っているのは非国民」といわれるように。食べ物にも困る時代で、ぜいたくだとされたからです。あまんさんが6年生のころ、ロンは人にゆずりました。ロンと別れるときは「ベランダに出て、しゃがんで泣きました」。

14歳の夏に日本が戦争に負けました。終戦からふた冬を過ごし、日本に引きあげる直前にレオが死にました。庭にレオをうめたとき、お父さんは「これで思い残すことはなくなった」とつぶやきました。

「犬は日本に連れていけない。年寄りのレオを置いていくのは心配だったので、父もほっとしたんでしょう」

「知りもしなかった」自分をはじる思いも

ただ、絵本でえがいたのは、あまんさんの実体験とはちがうお話です。作中、犬のクロは、日本に引きあげる飼い主の女の子(おばあちゃん)をさがして、引きあげ船が出る桟橋まで来ます。女の子は「いっしょに のれますように」と願いますが、かないませんでした。船が出た後、クロは遠ぼえをくり返しました。

物語には、桜の木がある庭でクロと遊んだ話が出てきます。「これは本当のこと。大連も桜が咲くんです」

あまんさんがレオとロンの話をそのまま物語にしなかったのには、理由があります。

お父さんが鉄道の関連会社に勤めていたあまんさんは「大人に守られて、日本人ばかりの学校も楽しかった」といいます。「でもあのころ、大連ではたくさんの人が苦労して、亡くなった。そのことを私は知りもしなかった。はずかしい、という思いがずっとありました」。だから大連のことは、「自分の話」としては書けませんでした。

それでも、子どもたちに「戦争の悲しみをひとしずくでも知っておいてほしい」と願い、このお話を書きました。

『さくらが さいた』(作 あまんきみこ、絵 鎌田暢子、文研出版)

子ども時代を旧満州で過ごした あまんきみこさん

 あまんきみこさんが子ども時代を過ごした中国東北部の旧満州。そこにはかつて、日本が満州事変=メモを読んでね=をきっかけにつくった「国」がありました。あまんさんは当時、「日本は平和のためにいいことをしている」と教わりましたが、戦争が終わると反対のことがいわれるように。戦後80年のいま、思うことを聞きました。

この記事は有料記事です。

デジタル版をご購読いただくと、記事の続きをお読みいただけます。

今すぐ登録(キャンペーン実施中)

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

ログインする

購読のお申し込み

紙の新聞版

朝日小学生新聞

2,100
月額(税込み)

申し込む

お試しを申し込む

サンプル紙面

朝日中高生新聞

1,200
月額(税込み)

申し込む

お試しを申し込む

サンプル紙面

デジタル版

朝小プラス

1,900
月額(税込み)

申し込む

デジタル版の紹介

朝中高プラス

1,050
月額(税込み)

申し込む

デジタル版の紹介