東京大学教授の広瀬友紀さん(心理言語学)が、身のまわりのいろいろな「ことばのまちがい」をとりあげます。小学生のテストや宿題だけでなく、身近な大人あるいはもっと小さい子どもが使うことばにも「これって!?」と思うまちがいがいろいろあります。まちがいは人間やことばについて、多くのことを教えてくれますよ。

発音がスムーズになるように変化
「すいません」は、申しわけなくて気持ちが「済まない」ことを表す表現で、「すみません」が本来の形です。でも「すみません」と声に出してみると、「みま(mima) 」のところでマ行(m)の音が続き、なんだか両くちびるがあわただしいですね。
この発音を少し楽にした形として「すいません」があります。「すみません」で立て続けに出るmが、「su(m)ima……」と一つ省略されます。人に声をかけるなど、軽い気持ちで使うときには、「すいません」を耳にすることが多いと思います。また、「すみません」のiの音を略してmの音をまとめると、「sum(i)ma……」→「すんません」となり、これは関西弁に多いですね。
相談者のお母さまのように、発音が楽なほうを「つい使ってしまう」のは、自然で理にかなったことと言えます。とはいえ、話し言葉よりもあらたまった書き言葉で真剣に謝罪の気持ちを伝えなければならないときは、発音で楽をするかわりに、より正式な言葉づかいを選ぶことが求められます。
ただ、それなら「申しわけございません」の「ございません」だって、本来は「ござりませぬ」なのでは?と思う人もいそう。たしかに「ござりませぬ」→「ございません」も、発音がよりスムーズになるよう変化してきたものです。ただし、現代の日本で「ございません」は、すでに「ござりませぬ」に取って代わって定着しています。謝るときに「ござりませぬ」だと、かえってふざけているように聞こえるかもしれません。
対して「すみません」「すいません」「すんません」は、あらたまったものからくだけたものまで複数の表現がいっしょにあって、使い分けができます。
さて、「すんません」よりさらに楽チンな形ってあるでしょうか? ぞんざいな日本語だと言われそうですが、気取らない間がらでは「サーセン」と略して使う人さえいます。「sumima」の最初と最後を残してごっそり省略した「s(umim)asen」→「サーセン」が最も省エネ、というわけですね。

広瀬友紀(ひろせ・ゆき)
大阪府出身。アメリカ・ニューヨーク市立大学で言語学の博士号を取得。著書に『ちいさい言語学者の冒険』や『ことばと算数 その間違いにはワケがある』、『子どもに学ぶ言葉の認知科学』。
(朝日小学生新聞2025年3月7日付)

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