テレビで「ACジャパン」というコマーシャル(CM)を見かけます。企業のCMとはちょっと違った雰囲気ですが、だれが、どのようにつくっているのでしょうか。

世の中へのメッセージ 企業CMの「代打」も
Q ACジャパンってどのような組織?
A 1千社以上の会社などがお金を出す民間組織

ACジャパンの前身となったのは、1971年に大阪で生まれた「関西公共広告機構」です。当時、日本は好景気にわき、経済の成長が続いた時代。しかし、一方で環境汚染や公共マナーの悪化、人と人との関係がうすくなるといった社会のひずみも出ていました。
最初に理事長を務めたのは、サントリーの社長をしていた佐治敬三さんです。佐治さんは、国民の公共意識を高める目的で活動していたアメリカの民間団体「アメリカAC」の存在を知り、日本でも同じようなことができないかと考えました。そこで、会社が少しずつお金を出し合い、世の中のためになるメッセージを広告にして発信しよう、という呼びかけにつながっていきました。
74年に「公共広告機構」として全国組織になり、2009年には今のACジャパンに名前を変えました。会員となっている会社や個人が出す会費をもとに運営される民間の組織で、ボランティアにも支えられています。
会員には、テレビ局やラジオ局、新聞社や出版社、広告会社といったメディアのほか、製造業、金融・保険、小売り、運輸、サービス、教育といったさまざまな会社や団体が名前を連ねています。
Q ACのCMはどんなときに多く流れるの?
A 大災害や大事件のとき、目にする機会が増える

ACジャパンのCMは、おもにテレビ、ラジオ、新聞、雑誌に向けてつくられています。毎年、3千人へのアンケートを行い、テーマを決めます。2024年度は「不寛容な時代」「防災」の二つのテーマを全国で展開しています。
全国の広告会社から、800~1千件の企画が提案されます。人の心を動かす力があるか、問題解決につながるかなどをふまえ、つくるCMを決めています。
いつ、どの作品を流すかはACジャパンの会員でもあるテレビ局やラジオ局などが判断します。ACジャパンは広告料を出さず、局が無料で枠を提供しています。
大きな災害や事件が起こり、社会全体が沈んだ雰囲気にあるとき、明るい内容のCMは人々の気持ちにそぐわないこともあります。そんなとき、広告を出す会社(広告主)も通常のCMを取りやめる場合があります。
近年は、11年の東日本大震災や、22年に安倍晋三元首相が銃でうたれた事件が起きたあと、ACジャパンのCMがよく流れました。本来は会社のCMが放送される予定だった枠が、ACジャパンのCMに差しかえられたためです。
広告主がCMを止める件数が増えるほど、ACジャパンのCMを見る機会が増えるともいえます。
最近のニュース
フジテレビで相次いだCMのキャンセル
フジテレビは、元タレントの中居正広さんが起こしたとされる女性との深刻なトラブルについて、これまでの対応が問題視されています。
フジテレビにCMを流していた会社の間では、人権を大切にする姿勢や説明、管理体制が十分でないとして、CMを取りやめるなどの動きが多く出ました。そのため、キャンセルされた会社のCMの代わりに、ACジャパンのCMがよく流れるようになりました。
フジテレビは、この件でCMを止めた会社には広告料を求めないことを決めました。ただ、別の会社であっても、フジテレビの番組を放送している地方のテレビ局にも、CMの取りやめなどの影響が広がっています。
解説者
伊藤宏樹
朝日新聞文化部記者
(朝日小学生新聞2025年3月21日)

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