グラフィック・あきもとまさと

大統領就任から3か月

 アメリカ(米国)のトランプ大統領は就任した1月20日以降、「米国第一主義」をかかげ、多くの政策を実行してきました。この3か月、どんなことが起きてきたかおさらいするとともに、いま進められている関税についての動きも考えます。(正木皓二郎、小勝千尋、奥苑貴世)

まず、ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、ウクライナへの支援を一時止め、停戦に向けた話し合いを進めています。パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘については、よりイスラエルを応援する姿勢で、「ガザを米国のものにする」などと発言しました。

国際機関と距離を置く

また、国際連合の専門機関「世界保健機関(WHO)」からぬけると発表したり、イスラエルの首相に戦争犯罪などの容疑で逮捕状を出した「国際刑事裁判所(ICC)」を批判したりと、国際機関と距離を置く姿勢です。

環境についての政策も、いままでの方針を変え、気候変動対策の国際ルール「パリ協定」からぬけることや、石油・石炭・天然ガスの活用を拡大することを発表しました。

多様性の取り組みやめる

国内に向けては、政府の職員を減らすなどしました。また、人種やジェンダー(性のあり方)などの多様性を大切にする取り組みをやめる考えです。「政府の方針としての性別は男女のみ」とし、多様性を実現するための政策「DEI」は終了するとしています。

社会の分断の表れ/議会を通さずに大統領令を連発

どうしてこんなに次々と新しい政策を進めているのでしょうか。米国の政治にくわしい上智大学教授の前嶋和弘さんに聞きました。

トランプ大統領は就任後、2か月あまりで100本以上の「大統領令」に署名し、「実行する大統領」というイメージをアピールしています。

大統領はふつう、投票してくれた人との約束を果たすために、国民と議会を説得して「法律」を作ります。

しかし、トランプさんは共和党の支持者からしか支持を得られていないことや、議会で共和党側の議席が、1度目に大統領になったときよりも少ないため、この鉄則を無視しています。

議会を通さず、昔の法律を根拠とする大統領令をもとに政策を進めるのは問題です。投票してくれた支持層をつなぎとめるために、連発しているのです。

トランプさんに賛成する層と、反対する層、米国は今、社会がこれまでにないほど深刻に分断しています。トランプさんの行動はその表れと言えます。

なかでもトランプさんの政策でいま最も世界を揺るがしているのが「関税」です。

米国が輸入する品に高い関税

自分の国の産業を守りやすく

グラフィック・あきもとまさと

米国のトランプ大統領は4月2日、世界各国・地域に対し、相手の国にあわせて、同じ水準まで税率を引き上げる「相互関税」をかけると発表し、5日からほぼ全世界の国・地域に10%の関税をかけました。9日には日本などにさらに高い税率を上乗せしました。しかしその約13時間後、SNSで税率の一部を90日間にわたってかけないといいました。

関税とは、外国から輸入する原材料や製品に対し、各国がかける税金です。主に輸入した会社などが払います。たとえば日本から米国に輸出した製品に高い関税がかかると、米国でその日本製品が値上がりし、売れにくくなります。その分、米国製品が売れると、米国は自分の国の産業を守りやすくなります。

「相互関税」が発表され、米国に対し多くの国が交渉を申し入れていました。16日には日本の赤沢亮正経済再生担当大臣が米国でトランプ大統領と話しました。石破茂総理大臣も今後米国を訪れ、トップどうしで話し合おうとしています。

一方、米国が当初、合計84%の関税をかけると発表した中国は、対抗して同じ84%の関税を課すと明らかにしていました。米国は18日現在、中国の関税を145%まで引き上げています。

税率や対象品目など二転三転

相互関税は、米国の会社にとっても良いことばかりではありません。例えば米国の自動車メーカーも、ほかの国から輸入する部品が高くなります。トランプ政権は米国内で部品も作るように促していますが、いきなり製造の仕組みを変えるのは難しいでしょう。そこでトランプ政権は一定期間、関税を少なくするなど特別なあつかいを考えています。このように、さまざまな「例外」が出そうです。

税率や対象品目など、何度も変わるトランプ政権の方針。相互関税が発表されてから、株式相場も大きく変動するなど、経済にも影響が出ています。

なぜこんなことをするのでしょうか。上智大学の前嶋和弘さんに聞きました。

「自由な貿易」に逆行  投資引き出すねらい

トランプさんは「米国は外国のせいで国民の生活が苦しくなった」と主張してきました。世界の国々への相互関税を発表したのは各国への「復讐」のためと考えられます。世界が進めてきた自由な貿易の逆を進んでいます。

トランプさんが相互関税にこだわるのは、関税が国内の製造業や農業を守ることにつながると信じているからです。また、関税をカードに、各国から米国への投資をさらに引き出すことで製造業全体が上向くことを期待しています。

ただ、思い通りになるかはわかりません。関税は米国民の負担を増やし、輸入品の値上がりにつながります。関税は根拠となる法律があいまいです。いろいろな裁判が起こる可能性があります。

(朝日小学生新聞2025年4月19日付)