
北ヨーロッパにあるアイスランドは、世界で初めて女性の大統領が生まれた国で、いまは大統領も首相も女性です。ジェンダー(社会の中での性別のちがい)の平等がもっとも進んでいるとして知られます。このほど来日した大統領が朝日小学生新聞のインタビューに応じ、日本の子どもたちに「思いこみをかえよう」とメッセージをおくりました。(佐藤美咲)
16年連続1位、日本は118位
世界の国々がどのくらい男女平等か――。世界経済フォーラムは2006年から毎年、「ジェンダーギャップ報告書」を発表しています。6月12日に2025年版が発表され、148か国のうち日本は118位でしたが、アイスランドは1位。トップになるのは16年連続です。
なぜ、アイスランドは男女平等に近い国になったのでしょうか?
大きなきっかけは1975年10月24日。男女で賃金の差があることや、家事の負担の大きさに不満を持っていた全国の女性の9割以上が「女性の休日」として、ストライキをしたことでした。
80年には、女性のフィンボガドッティルさんが大統領になりました。民主的に選ばれた大統領に女性が就くのは世界で初めてでした。
いまの大統領は、去年8月に就任したハトラ・トーマスドッティルさん(56歳)です。アイスランドでは2人目の女性大統領で、12月には政治のリーダーである首相にも女性が就任。初めて大統領と首相がともに女性となりました。
ジェンダー
社会や文化によって作り出された性別に関する考えや役割のこと。英語「gender」の外来語。報告書では教育・健康・政治・経済の4分野で男女平等の度合いを分析しています。
「一人ひとりが大事」と自覚して
アイスランドの女性大統領からみんなへ
Q(記者の質問) 1975年に大規模ストライキ「女性の休日」が起こったとき、トーマスドッティルさんは7歳。当時を覚えていますか?
A(トーマスドッティル大統領の答え) その日は母の誕生日でした。女性が家事などから解放されたことを喜ぶ中、男性たちは慣れない手つきで家事などをしていました。おばに「なぜ、ストライキをするの」と聞いたところ「女性が大事な存在だとわかってもらうため」と言っていたのを覚えています。
「女性の休日」から50年をむかえる今年10月24日、再びストライキをする予定です。今回は男性にも参加を呼びかけます。ジェンダー平等は女性のためだけでなく、社会全体、経済、そして未来にとっても不可欠なものだからです。
Q ジェンダー平等を実現するのに大切なことは?
A 「思いこみ」を変えること。リーダーは男性でないといけないと思うなど、社会の認識を変えるには対話と強い意志が必要です。見えるものがないと、なかなかイメージできないため、ロールモデル(手本となる人)も必要。女性初の大統領、ビグディス・フィンボガドッティルさんの存在がなければ、いまの自分はなかったでしょう。
Q 日本の子どもたちへメッセージを。
A 「自分たち一人ひとりが大事だ」と自覚してほしい。「私にはできない」などと思うこともあるだろうけれど、それで止まらないで。自分にとって大事なことは何か、それについて周りの人とどう取り組んでいったらよいのかを考えてみてほしいですね。
ハトラ・トーマスドッティル
1968年、アイスランド・レイキャビク生まれ。アメリカ(米国)の大学で学んだ後、米国の食品会社や飲食会社で働く。2006年、アイスランド商工会議所で初めての女性CEO(最高経営責任者)に。自身にとって2度目の大統領選挙で当選し、24年8月から大統領を務めている。
アイスランドの大統領
国民の直接選挙で選ばれ、任期は4年。政治のリーダーではなく、国民の象徴的な存在です。
「先輩」女性大統領が絵本に

フィンボガドッティルさんが初の女性大統領になるまでをえがいた絵本『世界ではじめての女性大統領のはなし』が去年、日本で出版されました。5月31日には東京・代官山で、作者のラウン・フリーゲンリングさんと、日本語に訳した朱位昌併さんのトークイベントがありました。
フリーゲンリングさんは、アイスランドで偉大な女性とされるフィンボガドッティルさんを絵本にすることにプレッシャーもあったそうですが、「彼女のことを語る一つの助けになればと思った」と話しました。

アイスランド、どんな国? 島国、温泉…日本と共通点
アイスランドの食文化やアート、音楽、自然などの魅力を楽しめるイベント「Taste of Iceland Tokyo」は5月30日と31日、東京都内で開かれました。Taste of Icelandは北アメリカの都市では20年以上前から開かれていますが、日本では初めてです。

5月27日にあったセレモニーには、大統領のトーマスドッティルさんが登場。日本とアイスランドについて、「地球の反対側に位置していますが、共通点が多くある」と説明。日本のようにアイスランドにも火山があって、地熱を生かした温泉を楽しむ文化があるそうです。海にかこまれた島国で美しい自然があることや、平和を愛する国ということも紹介しました。

アイスランドはオーロラを見られることでも知られています。来年8月の皆既日食では、神秘的なオーロラが見られるかもしれません。
トーマスドッティルさんは「ぜひ、日本のみなさんにアイスランドのことを知ってもらい、訪れてもらいたい」と笑顔で呼びかけました。


アイスランド

首都 レイキャビク
人口 約38万人
面積 約10万3千平方キロメートル(北海道と四国を足したくらいの大きさ)
言語 アイスランド語
通貨 アイスランド・クローナ
主な産業 水産業や水産加工業、観光業など
歴史
870~930年ごろ ヨーロッパの海賊「バイキング」がアイスランドにやってくる
1262年 ノルウェーに支配される
1397年 デンマーク王に支配される
1944年 独立し、アイスランド共和国が成立
49年 北大西洋条約機構(NATO)に加盟
75年 大規模ストライキ「女性の休日」が起こる
80年 ビグディス・フィンボガドッティルさんが女性で初めて大統領になる
(朝日小学生新聞2025年6月7日付、6月13日付を再構成)
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