自分であること、大切に

まどさんの詩は「たんぽぽ」(光村図書2年上)、「赤とんぼ」(光村図書2年下)、「わかば」(光村図書3年上)、「ぼくが ここに」(東京書籍3年下)、「ニンジン」(光村図書4年下、教育出版4年下)などが教科書にのっています。

「どんな小さなものでも、見つめていると宇宙につながっている」。そんな言葉を、まどさんは残しています。背景には、親とはなれて過ごした子ども時代のさびしい経験があります。

山口県徳山町(いまの周南市)に生まれたまどさん。5歳のころに、お父さんの仕事で家族は台湾にわたりますが、1人だけ祖父母のもとに残されます。「家族に捨てられた、という思いがあったのでしょう」。周南市美術博物館館長で、まどさんと交流があった有田順一さんはこう話します。半年後におばあさんが亡くなると、おじいさんと2人きりになります。

さびしさをいやしたのが、徳山の自然でした。花のおしべとめしべ、花粉にうもれた虫の触角などをながめ、小さいものを観察する目を育みました。たとえば詩「赤とんぼ」では「つくつくほうしがなくころになると、あの ゆうびんのマークが、きっと 知らせにきます」とユニークに書いています。

9歳のころに台湾に呼び寄せられます。24歳で詩人の北原白秋に認められ、童謡の世界に入りました。

「ぞうさん」を書いたのは、42歳のときです。意地悪で「おはなが ながいのね」といわれても、「そうよ かあさんも ながいのよ」と自信を持って答える――。自分が自分であることの大切さが、表れています。

この考えは詩「ぼくが ここに」にも通じます。何がどこにあっても、そこに「いること」こそが何よりもすばらしいと、表現しています。有田さんは「詩と同じでうそがない、純粋な方でした」と語ります。

山口県の周南市徳山動物園にある「ぞうさん」の石碑=2016年

小学生は「一かいきり」 がんばって

まどさんは50代のころ、絵をかくことに熱中します。ボールペンやクレヨン、水彩絵の具などを使ってかいた多くの作品は、題名のない絵でした。「自由な表現を手に入れ、その後の詩作に生かされた」と有田さんはいいます。

1994年、児童文学のノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞の作家賞を日本人で初めて受賞しました。作品は、動物の詩を集め、上皇后美智子さまが英訳した『THE ANIMALS 「どうぶつたち」』です。「自分らしさ」をたたえた詩は、世界で評価されました。

まどさんが3年生まで通った周南市立徳山小学校には、子どもたちに送られた直筆の手紙があります。「小学生はうまれてはじめてのがっこうで、たった一かいきりのすばらしい『とき』です。すっごい『とき』です。ぜんりょくあげてがんばって」とつづられています。

読んでみよう

『ぞうさん 現代日本童謡詩全集』

詩 まど・みちお、絵 東貞美、国土社

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『まどさん100歳100詩集』

詩 まど・みちお、編 伊藤英治、理論社

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『THE ANIMALS 「どうぶつたち」』

詩 まど・みちお、選・訳 美智子、絵 安野光雅、文芸春秋

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まど・みちお

 1909年、山口県生まれ。68年に詩集『てんぷらぴりぴり』で野間児童文芸賞、94年に国際アンデルセン賞作家賞、2003年に日本芸術院賞などを受賞。「ぞうさん」「一ねんせいになったら」などの童謡詩が歌いつがれている。2014年没。

朝日小学生新聞2016年4月28日付をもとに再構成。

(朝日小学生新聞2025年5月6日付)

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