
彬子さまは帰国後、「子どもたちに本物の日本文化にふれてほしい」と、心游舎(しんゆうしゃ)という団体をつくりました。京都の大学で研究を続けるなかで、多くの日本文化がこのままでは失われてしまうと感じたからです。リポーターたちの質問は、イギリスから日本の話へとうつります。
展覧会でお気に入りの見つけ方
あやねさん テレビ番組の影響で浮世絵などに興味を持ち、展覧会に母と行くことが多いです。海外で日本美術を研究された彬子さまから、このような視点で展覧会を見るとおもしろいというアドバイスはありますか?
――私は展覧会のなかでひとつ持って帰れるとしたら、何がいいかなって、いつも考えています。「これだったらうちのここに置きたいな」とか、「これを使ってこんなことをしてみたい」とか。そうすると、愛着がわくじゃない? 作品を理解しようとするとお勉強になってしまうけれど、想像すると楽しいから、私はわりとそういう見方をしています。
「好きか、きらいか」という視点を持つのもいいと思います。「この絵、めっちゃきらい!」だったら、何で自分はこれをきらいだと思うんだろうと考えられる。好きだと思ったら、「この前、家族で行った海の景色に似ている」と、思い出に結びつくかもしれません。好きなものは記憶に残るし、よりいっそう作品への理解も深まります。
かりんさん 心游舎の活動で、子どもたちが日本文化のすばらしさを知ってくれたと実感された瞬間がありましたら、教えてください。
――太宰府天満宮幼稚園(福岡県)で、和菓子づくりのワークショップを続けています。初めてワークショップをした1年目は、「和菓子はきらいや~。あんこなんて、ふだん食べん」といって、お味見をしても残す子がけっこういたのね。
でも、和菓子は季節を反映していいて、「みんながふだん見ているモミジやアジサイが和菓子になるよ」と見せると、興味を持ってくれるのです。工場見学に行って、実際に食べて、最後にみんなでつくって奉納します。最初は和菓子を食べないといっていた子が、協力してくれた和菓子屋さんに行くようになったという話を聞くと、やっていてよかったなって思いますね。

ワークショップの最後に「楽しい時間は早く過ぎるね」っていってくれた子がいました。楽しかった思い出が、日本文化を大切にすることにつながっていくと思います。
「いたただきます」「ごちそうさま」を大切に
かりんさん 日本文化を守るために、小学生ができることは何だと思いますか。毎日のくらしのなかで気づけるすばらしさがあれば知りたいです。
――いろいろな日本文化を楽しむことだと思います。本物の日本文化にまつわるものを使ってみるのも、すてきなことです。たとえば、やきものやうるしの食器を使ってみると、プラスチックの器よりごはんがおいしく感じられたり、コップがくちびるに当たる感覚が気持ちよく感じられたりすると思います。
神社やお寺に行って、ちょっとのぞいてみる。知らないところに行って、興味の芽を伸ばしていくことも大事です。お祭りも、見ているのと、やってみるのとではまったくちがうから。やってみると、「この笛吹くのめっちゃ難しい」「この太鼓はたたくの楽しい」と、気づくことがたくさんあります。
日本文化にかぎらず、みんながいろいろなものに興味を持って、自分からやってみたいと思うことが大事です。
あとは、いつも思うのですが、ご飯をいただくときの「いただきます」と「ごちそうさま」は、わすれないようにする。「いただきます」という言葉には、いろいろな意味がこめられていると思うのね。
ご飯をつくってくださったお父さん、お母さんに「今日もつくってくださって、ありがとう」という思い。それから人間って、いろいろな命をいただかないと生きていけない生き物だから、命をくれた野菜や魚、お肉、それをとってくれた人、運んでくれた人。いろいろな思いをこめての「いただきます」と「ごちそうさま」だから、朝昼晩3回ずつちゃんとというだけでも、日本文化を大切にすることにつながると思います。
なみさん お好きな古典芸能の種類や、小学生におすすめの作品を教えてください。まだ見たことがない子に、どんなところに注目すると楽しめるかも教えてください。
――私は歌舞伎をよく見るので、小学生が最初にふれる古典芸能は、歌舞伎がわかりやすいのではないかと思ったりします。みんなが知っている昔話もあるし、源義経のような歴史上の人物が出てきたりもします。知っているお話だと理解しやすいでしょう。
歌舞伎役者さんは、テレビに出ている人が多いので、知っている人が出ているおしばいだとより親近感がわきますね。「推し」を見つけると、より楽しくなりますよ。
みんなが興味を持つきっかけは、きっとたくさんあると思います。「歴史が好き」とか「衣装がきれいだな」とか、「このかつら、すごく変!?」でもいい。身がまえないで、純粋に「おもしろいおしばいを見に行くぞ」と思ったら、きっと自分の「好き」を見つけられると思います。

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