職人の「こだわり」 完成するのは年に2、3振り
この日の群馬県富岡市の最高気温は約38度。暗幕を引いた鍛刀場では、1時間に1俵もの炭を燃やします。場内に一歩足をふみ入れたとたん、汗が止まりません。でも「暑さは苦労だと思わない」と石田さん。「やけどをしませんか?」という質問には、「します。気にしないだけです」。

刀鍛冶になるには、5年以上の修業の後に文化庁が開く研修会を修了する必要があります。全日本刀匠会には、169人の刀鍛冶が登録。そのうち実際に職業にしているのは60人ほどだといいます。石田さんは、おじいさんのお葬式でお守りの「枕刀(まくらがたな)」を見て興味を持ち、18歳でこの世界へ。奈良の刀鍛冶のもとで修業を積みました。「好きなことだから、楽しく続けられた」とふり返ります。
鍛冶仕事はひとりでしますが、刀の表面をみがく研師(とぎし)、金具をつくる白銀師(しろがねし)など、完成までに多くの職人に協力してもらいます。刀をおさめる柄(つか)や鞘(さや)などをふくめると、さらに多くの職人がかかわります。「分業制が日本の工芸の特徴。それぞれに最高の技を出し合い、いいものをつくろうとするのです」

1か月につくれるのは1、2振りですが、気に入らないと材料にもどしてしまいます。お客さんのもとにわたるのは年に2、3振り。刀鍛冶になってからは50振りほどです。「死ぬまでに100振りくらいかな。いつも次が最高傑作のつもりでいます」。そんな思いで、刀と向き合う毎日です。
「それで生活できるのですか?」と、らくさん。「もちろんです。そうでなければ、仕事にしません」と石田さんは答えます。大きさなどによっても異なりますが、完成した刀には何百万円もの値がつきます。買っていくのは一般の人が多く、お守りなどとして大切にするそうです。
ひと振りの刀をつくるのに、いろいろな人がかかわっていることにびっくりしました。分業制が大事といっていたので、今度は刀づくりのほかの職業も調べてみたいと思いました。

まめ知識 たたら製鉄と玉鋼
刀の原料となる玉鋼は、古くから「たたら製鉄」という方法でつくられています。木炭を燃やして砂鉄をとかして、質のよい鋼にします。今も島根県奥出雲町で行われています。「たたら」とは、炉に空気を送りこむ「ふいご」のことです。

玉鋼は、まるで隕石(いんせき)のようにゴツゴツとしています。刀をつくるときは、うすくのばしてから細かくくだいて、かたい部分とやわらかい部分に分けて使います。鍛錬をはじめとするさまざまな工程をへて、刀の形にしていきます。
