東大教授のこのことばヘンじゃない!?
家、学校、街中でのやりとりや、テレビやインターネットの世界で使われていることば。そんな身の回りのいろいろなことばについて、東京大学教授の広瀬友紀さん(専門は心理言語学)が「ヘン」なのか、なぜ「ヘン」だと感じるのか、考えます。ことばを深ぼりすれば、人の頭の中で起きている「目に見えないこと」が見て取れるのです。

これはおそらく、朝小編集部としての決まりに合わせたものでしょうから、このコーナーを担当する松村大行記者に聞いてみました。書き方としては「一つ一つ」「ひとつひとつ」「一つひとつ」のどれも正しいですが、「一つひとつ」が「漢字が続かずに最も読みやすい」書き方だろうと考えて、選んでいるそうです。ほかにも「人々」「人びと」「ひとびと」のどれを選ぶかなど、新聞社によって決まりがちがうこともあるようです。
みなさんはどう考えますか? 漢字とかなのどちらも使えそうなときに、どういう書き方が読みやすいでしょうか?
まず「漢字よりもかなの方が、読むのもかんたんに決まっている」という意見がありそうです。私も、日本語を勉強中の留学生にわたすメモを親切のつもりで、ひらがなだけで書いたことがあります。
ところがそれは逆に読みにくかったそうです。日本語ではかなと漢字が適度にまじることで、どこからどこまでが一つのまとまりで、どのように区切って読めばよいか、ヒントになるのですね。日本語になれた人でも「あなたはしらないの?」と書かれて、「あなたは知らないの?」か「あなた走らないの?」のどちらかわからない、ということが起こります。

日本語での漢字の使われ方はさまざま。音読みの漢字がまとまって熟語の一部になることも、訓読みで日本にもともとあることばを表すこともあります。
たとえば「生」は、「生徒」「先生」の「せい」だったり、「生きる」だったりします。これがもとで、切れ目をかんちがいした有名な例が、インターネットで広まった「この先生きのこるには」です。
書いた人は「この先(さき)生(い)きのこるには」のつもりだったのに、読む人が「この先生……、『きのこる』ってなに!」と反応したというもの。
ほかにも「私の家来ちゃいますか」を、「私の家来(けらい)ちゃいますか」と読まれたとか、思わず笑ってしまう例がたくさんあります。
熟語によっては使われる漢字が難しいため、そこだけひらがなにしたところ、かえってわかりにくいと言われるものもあります(「ねつ造」「ばん回」など)。漢字の一つひとつには意味があるので、画数が多く難しくても、ぱっと見ただけで情報が伝わりやすいのです。
「一つ一つ」「ひとつひとつ」「一つひとつ」も、使い分けは書き手や作り手しだい。どれが一番読みやすいか、考えて決めた結果なのですね。
広瀬友紀(ひろせ・ゆき)
大阪府出身。アメリカ・ニューヨーク市立大学で言語学の博士号を取得。著書に『ちいさい言語学者の冒険』や『ことばと算数 その間違いにはワケがある』、『子どもに学ぶ言葉の認知科学』。
(朝日小学生新聞2025年9月1日付)

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