「まわりの理解がないと、よくならない」

関西地方に住む小学6年生の男の子は、学校でまわりの子の服から出る香りにさらされると、頭が痛くなります。ひどいときは、家に帰ると動けなくなるほどです。「くさいからではなく、しんどい(つらい)から、香りの強いものを減らしてほしい」といいます。

今年、小学校に入った女の子は、香りがこもった場所にいると顔や手足がかゆくなるといいます。症状が数日続くと、おなかが痛くなったり熱が出たりすることも。保育園では、大きな扇風機を回して空気を入れかえてもらったり、柔軟剤をひかえるようほかの子たちの保護者に呼びかけてもらったりしました。

学校に相談して座席を窓ぎわの一番前にしてもらい、ほかの子の物のにおいが移らないように持ち物をはなして置いてもらっている子もいます。なかよくしたい子がいても香りがきつくていっしょに遊べないといい、お母さんは「友だち関係がせばまるのでは」と心配します。

こうした香害に苦しむ人の声を広く集めて伝えようと、2021年7月に「カナリア・ネットワーク全国」という集まりができました。会員数は現在約650人。代表の一人、青山和子さんは「香害は苦しんでいる人だけでは、さけられない。まわりに理解してもらわないと、よくならないのです」と話します。

「香害で不調」小中学生の1割

朝小プラスまなび

症状に幅/反応のしくみは、まだわからず

香りが原因で体の具合が悪くなるのは、化学物質過敏症の症状です。こうした患者さんを長くみてきた高幡会大西病院(高知県四万十町)の院長、小倉英郎さんは、ここ10年、子どもが発症するきっかけは衣服に使われる洗剤や香料入りの柔軟剤が多いといいます。

香料の化学的な物質が空気中に広がり、それを吸いこむことで頭痛や下痢、せき、鼻血などの症状が出ます。ひどくなると、他の化学物質にも反応するようになってしまいます。「症状は人によって幅があり、反応のしくみは、まだよくわかっていません」と小倉さん。

「つらい思いする人、増えてほしくない」

化学物質過敏症は1990年代、建物や家具などに使う接着剤や塗料で起きる「シックハウス症候群」が問題になりました。規制されてシックハウスの問題は減りましたが、柔軟剤などでの発症は増えています。症状が出る人は一部ですが、小倉さんは「何でもない人にも、体にいいとはいえない」といいます。

校舎の改修をきっかけに、化学物質過敏症を発症した小学6年生の女の子は、ペンや消しゴムなどのにおいもだめ。防毒マスクをつけて学校に通っています。「私のようにつらい思いをする人が増えてほしくない」と話しています。

「使う量を守って」国民生活センター

柔軟剤のにおいについては、国民生活センターにも多く相談が寄せられます。パッケージにある「香りの強さの目安」を参考に、決められた量を守って使うことを呼びかけています。

厚生労働省や文部科学省など五つの省庁は「その香り 困っている人がいるかも?」というポスターを作り、注意と関心をはらうよう求めています。

(朝日小学生新聞2023年4月20日付)