――キネマ旬報シアターの成り立ちについて教えてください。

うちはミニシアターで、1919年創刊の映画雑誌「キネマ旬報」(以下、キネ旬)を発行するキネマ旬報社が運営しています。ミニシアターという存在は、90年代をピークにどんどん減っているんです。配給会社が大々的に宣伝する大作ではないけれど、いわゆるアート系やインディペンデント映画にも良い作品は数多くあります。そういった作品を観る機会が減っていくのは非常に悲しいことで、紙面で紹介するだけでなく、実際に観てもらう機会を創出していくことも、100年以上も映画に携わってきたキネ旬の役目でもあるのかなと常々思っていました。

そんなときにたまたま、ここのテナントにはかつて別の映画館が入っていたものの閉館していたんですが、「キネマ旬報さんで今度やってみませんか」とお声がけをもらいました。当然、キネ旬のスタッフは本を作れても映画館は経営したことがありません。悩みましたが、せっかくのお話なのでチャレンジすることに。そうして2013年にこのキネマ旬報シアターがオープンしました。

図書館にはキネ旬がずらり 読むだけでもOK!

――運営元がキネマ旬報さんというのは、映画好きの人からの信頼が厚そうです。

そう思ってもらえたら嬉しいですね。館内には、キネ旬のバックナンバーや映画の関連書籍を自由に読める図書館を併設しています。映画を観ずに読書するだけでも構いません。読んで楽しんでもらいたいという出版社ならではの思いも込めた映画館なので。とは言え、たとえば上映作品の関連本を読んでもらい、興味が出たらフラっと映画を観てもらえたりするのも嬉しいですね。

KINEJUN図書館は大好評。映画の待ち時間も苦にならない。

空間的にも、古い映画のポスターを貼ってみたり、パンフレットを置いてみたり、映画の多角的な楽しみ方を提供するようにしています。今年リニューアルしたカフェスペースも充実していますよ。大がかりな工事が必要になりそうなところですが、スタッフが手作りで頑張ってくれたんです。彼らには本当に感謝しています。

本作りのノウハウを活かした映画館

――イベントも開催されていますが、どのような内容でしょうか。

関連作品の同時上映やトークイベントなどですね。大きな映画館だと、完成披露試写会で監督と出演者が来て大々的に盛り上がったりしますが、うちの場合は作品世界を補完するような、トークを中心にしたイベントを意識して行っています。

たとえば戦争映画の場合、戦争の研究をしている大学教授らに登壇してもらって時代背景を解説する、など。もちろん映画を観て抱く感想や答えは人それぞれではありますが、少しこう、映画をより深堀するためのヒントというか脚注をつけてあげるイメージですね。

名作のポスターがずらり。映画の世界に引き込まれそう

実はこれ、本作りとも似ています。とある映画作品をキネ旬で特集するとして、物語のあらすじだけを書いても本としては成り立ちません。ボリューム的にも質的にもね。作品が作られた背景、なぜこのテーマなのか、なぜ今なのか、どんなメッセージが込められているのか等々、その作品を補完する記事が必要になってきます。それをキネマ旬報シアターではトークイベントという形で提供しているイメージですね。そういった意味では、雑誌のキネマ旬報とキネマ旬報シアターは構成が似ている部分もあって、雑誌作りのノウハウを活かした映画館、と言えるかもしれません。

▼キネマ旬報シアター公式サイトはこちらから
 https://kinejun-theater.com/