――シネマ・ジャック&ベティの成り立ちについて教えてください。

当館は1952年にできた名画座を老朽化により建て直して、91年にシネマ・ジャック&ベティとして再開館しました。なので前身の名画座時代を含めると72年の歴史があります。私自身は元々サラリーマンをしていたのですが、ここ黄金町エリアの文化・芸術的な町おこしに携わったのがきっかけで、縁あって2007年に経営を引き継ぐことになりました。

シネマ・ジャック&ベティの外観

スクリーンは二つあって、それぞれ「ジャック」と「べティ」という名称です。リニューアル当初は、青を基調とした内装の「ジャック」はチャンバラや西部劇など男性向け作品を、赤を基調とした「ベティ」はラブストーリーやロマンスなど女性向けを上映していたようです。カップルで来たら一緒にどちらかを見てもいいし、場合によっては好きなほうを別々に見て、見終わったらまた落ち合って横浜のデートを続けてもらえたらいいんじゃないかと。

ちなみに名前の由来は、昔の英語の教科書が「ジャック&ベティ」という名前で、登場する男女ペアの名前から取ったそう。年配の人にとって横文字の名前としてはなじみのあるものらしいです。

映画のセレクトショップのように、多彩な作品を

――横浜では貴重なミニシアターですよね。シネマ・ジャック&ベティならではの強みや特徴はどこだとお考えですか。

大手のシネコンでは観られないような作品を選りすぐって上映しています。歴史ある映画館ということもあり、うちの常連さんは本当に映画好きで幅広い作品を観ている方が多いんですよ。だから邦画はもちろん、世界中の作品を新旧問わず、ドキュメンタリーもドラマもアクションもホラーも、常にできるだけ多彩な作品を上映しています。

なお、自主制作映画に近いようなインディペンデントの映画を色々上映するというのは、これから活躍される映画作家の発掘を行っているような意味合いもあり、映画の作り手の応援にもつながればと思っています。

館内は手作りのPOPであふれ、映画愛が伝わってくる

また、うちに限らずミニシアターの利点はお客さんとの距離感が近いことですね。監督や出演者による舞台挨拶やトークショー、サイン会など、できるだけコミュニケーションをとれるイベントを重視して開いています。小さい劇場だからこそ、上映前後のお客さんの表情が見えやすいし、人によっては終了後にすぐに感想を教えてくれたりもします。お客さんの反応を参考にして次の作品を決めることもありますよ。ある意味、映画のセレクトショップのような感覚で運営している気分ですね。

子ども向けの上映会、映写室の見学体験も

――親子向けのイベントも開催されているそうですね。

はい。うちは年配のお客さんが多いですが、ぜひ若い方や親子連れの方にも来てもらいたくて、毎年続けているのが「夏休みの映画館」という企画です。コミュニティシネマセンターという組織と共同主催で開催していて、全国のミニシアターや上映団体などと同時期に子ども向けのプログラムを上映しています。

その一環で、サイレント映画を上映してピアノの生演奏をつける企画も開催しています。昔は映画に音がついていなかったことを体験してもらう一方、場面によってはみんなで手拍子をしてもらって、映画に音をつけるとはどういうことかを一緒に経験しました。

あとは、普段はお客さんが入れない映写室を見学できるイベントも好評でしたね。映画館の人はどんなふうに働いているんだろうとか、映画館の機械ってどうやって動いているんだろうとか、子どもたちの社会科見学になったみたいでよかったです。

映写室見学の様子。普段見れない現場に大人も子どもも大興奮

――今後、どのような映画館になっていきたいですか。

正直、コロナ禍やネット配信の台頭を経て、町の映画館は厳しい状況が続いています。ですが、うちはありがたいことに横浜の地域の方々の協力で色々な取り組みをしています。

たとえば、地域の学校と連携して中高生の職業体験を受け入れています。映画館の仕事を少し手伝ってもらったり、学生さんの目線でうちの上映作品を紹介するとしたらどうするか考えてもらったり。

また、シネマ・ジャック&ベティの普及に協力してくれる学校もあります。横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校の学生さんは、さすが理数系に特化した学校の生徒さんらしく、理系の頭脳を使って映画館の厳しさを改善する方法を考えたり、若い子らしくSNSで発信したりしてくれました。横浜市内にキャンパスがあるフェリス女学院大学の方たちは、町中にある映画館をもう少し盛り上げたいと言ってくださって、今連携を始めているところです。

こんなふうに地域の方々に愛されて支えていただいています。自宅で気軽に映画鑑賞できる時代ではありますが、映画館で見知らぬ人たちと同じ作品を共有する醍醐味を伝えながら、老若男女に来場してもらえるような工夫をこれからも続けていきたいです。

――最後に、シネマ・ジャック&ベティで上映されるおすすめの作品を教えてください。

10月19日(土)から上映する、想田和弘監督のドキュメンタリー作品「五香宮(ごこうぐう)の猫」はいかがでしょう。親子連れの方にもおすすめできるかと思います。

「猫好きにはたまらない映画」ですが、まわりの人間模様が本題でもあります。 ©2024 Laboratory X, Inc

「五香宮」は岡山県牛窓にある鎮守の社のこと。そこに集まる猫たちや地域のコミュニティを映し出しています。私自身も猫好きですが、野良猫の数が多くなると住民の人たちに迷惑をかけたりして、必ずしもみんながハッピーにはなれないんですよね。大きなストーリーがあったり、大事件が起きたりするわけでないですが、想田和弘監督による観察映画らしい、台本がない面白さがあります。

▼シネマ・ジャック&ベティの公式サイトはこちらから
https://www.jackandbetty.net/