おもしろい話や人情にうったえる話などを、ひとりで語るのが「落語」です。小道具は基本的に、扇子(せんす)と手ぬぐいだけ。目線や声色、身ぶりで、さまざまな登場人物を演じわけます。(監修 武蔵野音楽大学特任教授・中川俊宏さん、協力 独立行政法人日本芸術文化振興会)
オチ・サゲ 長屋(ながや) 人情ばなし 寄席(よせ) 真打(しんうち) 落語のことば 落語を見るには 寄席のしごと
【オチ・サゲ】 落語の名前の由来になった「オチ」
いまから千年ほど前の平安時代には、仏さまの話をたくみに語る「説教師」という人たちがいました。いつの時代も話のおもしろい人は人気があったようです。豊臣秀吉をはじめとする武将のそばにも、おもしろい話をする「おとぎ衆(しゅう)」と呼ばれる人たちがいました。
話の最後には、気のきいた結末がつけられます。これをオチやサゲといい、このことから「落としばなし」と呼ばれていました。
江戸時代の後期には、江戸(東京)で大人気になりました。その後、明治時代から大正時代にかけて「落としばなし」は「落語」と呼ばれるようになりました。
下の写真は、江戸時代末期に出された冊子の表紙。笑い話を収めていて、表紙には当時の、はなし家の名前が記されています

【長屋】騒動の舞台となる江戸時代のアパート
落語に出てくる登場人物は、町人を中心に、さまざまです。
なかでも江戸時代のアパート「長屋(ながや)」がよく舞台になります。お調子者でおっちょこちょいの「八っつぁん」や、いせいのいい「熊さん」、しっかりものの妻「おかみさん」、ぬけたところがあるがけれど愛される「与太郎」などが登場します。
ほかにも、大きなお店の「大だんな」や世間知らずの「若だんな」、物知りな「ご隠居(いんきょ)」や「和尚(おしょう)」なども出てきます。落語家は、すべての登場人物を1人で演じわけます。

【人情ばなし】しみじみ心に響く感動ストーリー
落語は最後に、しゃれや語呂合わせで笑わせるオチ(サゲ)のある話が多いのですが、夫婦や親子の情愛などをえがいて、心に深く響く話が人情ばなしです。しみじみとした情緒や風流が味わえ、大笑いする話とはちがったよさがあります。
おもなものに「文七元結(ぶんしちもっとい)」や「芝浜」があります。
また、夏にはちょっとこわい怪談ばなしというジャンルもあります。幽霊などが登場するホラーです。
【寄席】肩の力をぬいて楽しめる場所
落語のほかにも、漫才や曲芸、奇術(手品)など、さまざまな芸能を楽しく聞かせたり、見せたりしてくれる場所が寄席(よせ)です。肩の力をぬいて楽しめます。
落語家が何人も入れかわり立ちかわり登場し、じっくり話を聞かせます。
江戸落語では舞台上は、ざぶとんだけですが、大阪の上方(かみがた)落語では、見台(けんだい)という小さな机や、足をかくす「ひざかくし」なども置かれます。

寄席では、落語のほか、かさやまりなどを使った曲芸の太神楽(だいかぐら)や、トランプやロープなどを使うことでおなじみの奇術も見られます。

【太神楽】傘回しは幸運のしるし、豊かな日本文化を伝えたい 鏡味味千代さん
朝中高プラスまなび
【真打】江戸落語で「一人前」の称号
東京の落語家には三つの階級があります。前座、二ツ目、真打(しんうち)です。落語家になるには、希望する落語家の師匠に許しを得て入門、まず見習いになります。その後、修業を積むにつれて、前座、二ツ目へ進み、真打になったら一人前です。
寄席でも、この順番で登場します。プログラムの一番初めに前座が出て、その後で二ツ目、最後に真打が出演します。
【落語のことば】 トリ
寄席のプログラムで、最後の出演者をトリと呼び、真打がつとめます。一番重要な出番で、実演時間も30分はあります。
いまでは、年末のNHKの歌番組で、「今年の紅白のトリは○○○○さん!」などと使われることでもおなじみの言葉になっています。
【落語を見るには】
東京なら、鈴本演芸場(上野)、新宿末廣亭(新宿)、浅草演芸ホール(浅草)、池袋演芸場(池袋)、国立演芸場(現在は閉場中でほかの劇場で公演)などがあります。大阪なら天満天神繁昌亭(天神橋)などがあります。劇場や会館で行われる「ホール落語」も人気です。
【寄席のしごと】一人前の落語家になるまで十数年
「真打」の項目で少し説明しましたが、まず希望する落語家の師匠に許しを得て入門しなければなりません。ふつう入門から「二ツ目」まで3~5年、二ツ目から「真打」まで10年かかるといわれます。ただ、真打になってからの方が落語家人生は長いので、一人前の落語家としての出発点ととらえることが多いそうです。
また、太神楽師に入門するなどして、太神楽師となる道があります。国立劇場伝統芸能伝承者養成所では、太神楽の演技者になるための基礎を学べます。基本的に3年に一度募集していて、研修期間は3年間です。
監修 中川俊宏(なかがわ・としひろ)

武蔵野音楽大学特任教授。専門は文化史、アートマネジメント。国立劇場調査養成部に勤務、文化庁・芸術文化調査官、武蔵野音楽大学教授などをつとめ現職。
日本芸術文化振興会が運営するサイト文化デジタルライブラリーなどを参考にしました。

「朝小プラス」は朝日小学生新聞のデジタル版です。毎日の読む習慣が学力アップにつながります。1日1つの記事でも、1年間で相当な情報量に!ニュース解説は大人にもおすすめ。