文楽(人形浄瑠璃)は、義太夫節という音楽にあわせて、人形たちがまるで生きているように動くおしばいです。世界的にもめずらしい、大人のための人形劇です。(監修 武蔵野音楽大学特任教授・中川俊宏さん、協力 独立行政法人日本芸術文化振興会)
竹本義太夫(たけもとぎだゆう)と近松門左衛門(ちかまつもんざえもん) 太夫(たゆう) 三味線(しゃみせん) 人形 床(ゆか) 文楽を見るには 文楽のしごと
【竹本義太夫と近松門左衛門】文楽のヒットメーカー
文楽は、物語を三味線の演奏にのせて語る浄瑠璃(じょうるり)という音楽と、人形のおしばいがひとつになって、江戸時代の初めに大阪で生まれました。町人文化が栄えた元禄時代に、竹本義太夫(たけもとぎだゆう)という浄瑠璃のスターが登場しました。義太夫が語る浄瑠璃は義太夫節(ぎだゆうぶし)と呼ばれ、浄瑠璃といえば義太夫節というほど人気になりました。
義太夫といっしょにヒット作を生み出したのが、劇作家の近松門左衛門です。初期の文楽は、源平合戦など時代物(じだいもの)と呼ばれる歴史物語ばかりでした。近松は、一般の人たちを主人公にした物語を書き、新たに世話物(せわもの)というジャンルをつくりました。近松の人気作品は、すぐに歌舞伎の舞台でも上演されました。

【太夫】せりふやナレーションを1人で
義太夫節は、太夫(たゆう)と三味線(しゃみせん)のコンビで演奏されます。太夫は、義太夫節の語り手です。舞台に登場するさまざまな人形のせりふや気持ちなどを語り分ける声優、場面の状況説明を紹介するナレーターの役目を1人でこなします。おなかの底から声を出し、マイクを使わなくても劇場のすみずみまで迫力たっぷりの語りが響きわたります。
義太夫節の基本は、太夫1人、三味線1人で演奏しますが、演目によっては、それぞれ5人くらいが並ぶこともあります。

【文楽の太夫とは】竹本碩太夫さん 人形が生きているように情景を語る
朝中高プラスまなび
【三味線】気持ちや情景も音で表現

三味線弾きは、太夫といっしょに義太夫節を演奏します。太棹(ふとざお)と呼ばれる大きめの三味線は、太夫の声量とバランスがとれた低く大きな音が出ます。単なる伴奏楽器ではなく、登場人物の気持ちやさまざまな場面の情景を音で表現します。
【人形】3人が呼吸を合わせて命をふきこむ
3人の人形遣い(にんぎょうつかい)が協力して、1体の人形をあやつります。リーダーは、頭と胴体、右手を担当する主遣い(おもづかい)。頭の下の胴串(どぐし)をあやつって、人形の顔の表情をつくります。左手を担当する左遣い(ひだりづかい)、足を担当する足遣い(あしづかい)は、主遣いの合図をもとに、呼吸を合わせてなめらかに動かします。

主遣いは、はかま姿で顔を出しますが、左遣いと足遣いは全身真っ黒の黒衣(くろご)という姿で、存在感を消して、主役の人形を引き立たせます。

人形の頭と顔にあたる部分は「首」と書いてかしらと呼びます。役柄によって使われるものが決まっていて、国立文楽劇場には約80種類あるそうです。下の写真は左から、娘(むすめ)、老女方(ふけおやま)、文七(ぶんひち)、鬼一(きいち)のかしらです。娘は、10代の未婚の女性のかしらで、お姫さまや町娘などに使われます。老女方は、20代から40代の結婚した女性のかしら。まゆ毛をそって、歯を黒くする「お歯黒」をしています。文七は、男性の主人公などに、鬼一は、がんこだけど思いやりのある年配の男性の役などに使われます。

教えて!文楽人形遣いのしごと 吉田和登さん(人形浄瑠璃文楽座)
朝小プラスまなび
【床】かべがくるりと回って演者が登場

床(ゆか)は、客席から向かって右手にあり、太夫と三味線が演奏する場所です。床の下は丸く切ってあり、後ろのびょうぶといっしょにくるりと回して演奏者が交代します。
人形がしばいをする中央の舞台には、客席との間に高さ50センチほどの柵(さく)があります。手摺(てすり)といいます。人形遣いはその後ろで人形をあやつり、手摺が人形にとっての地面となります。
【文楽を見るには】
文楽が生まれた大阪には、文楽専用の国立文楽劇場があります。東京の国立劇場が閉場中は、首都圏各地のホールなどでも公演があります。そのほか、地方のホールなどを回る巡業もあります。国立文楽劇場では毎年7、8月の夏休み文楽特別公演で、「親子劇場」として子ども向けの演目を上演します。
【文楽のしごと】
太夫、三味線、人形遣いの三つをあわせて三業といい、それぞれに長い期間の修業が必要です。大阪の国立文楽劇場で2年間、文楽の基礎を学ぶ研修制度があり、三業のうちのどれかを選びます。研修が終わると、師匠について本格的な修業を始めます。
監修 中川俊宏(なかがわ・としひろ)

武蔵野音楽大学特任教授。専門は文化史、アートマネジメント。国立劇場調査養成部に勤務、文化庁・芸術文化調査官、武蔵野音楽大学教授などをつとめ現職。
日本芸術文化振興会が運営するサイト文化デジタルライブラリーなどを参考にしました。

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