
今回は2023年に公開された宮﨑駿監督作品『君たちはどう生きるか』をご紹介します。これまでの宮﨑監督作品と比べると一見語り口が複雑で難しく感じる部分もあるかもしれませんが、実は感受性の豊かな子ども達こそ楽しめる映画だと思います。ここでは親子で本作を楽しむためのヒントをご紹介します。 ※あくまでも筆者個人の見解・考察です。
『君たちはどう生きるか』は11/22(金)からグランドシネマサンシャイン 池袋で1週間限定再上映予定です。ぜひ劇場でお楽しみください。

〇心象風景をアニメーションに
本作は『死の島』(ベックリン)、『ピレネーの城』(マグリット)、『通りの神秘と憂愁』(デ・キリコ)など、様々な西洋絵画がモチーフになっているシーンがあると指摘されています。作者の心象風景や心の中のイメージを絵画で表現したこれらの作品のように、宮﨑駿監督は自身の心の内をアニメーションで表現しているのだと思います。
主人公の眞人が青サギによって連れて行かれる不思議な世界での風変わりなストーリーやセリフも、宮﨑駿監自身の心のままを表現したものだと思うと少し見方が変わってくるのではないでしょうか。型にはまった物語を脱却し、自らのインスピレーションのままに作られた本作は、子どもの想像力に直接訴えかけるような内容になっていると感じます。
冒頭に挙げた絵画のモチーフがどのシーンで用いられているのか、お子さんと一緒に探しながら観てみるのもおすすめです。
〇モチーフになった児童文学
児童文学に造詣の深い宮﨑監督ですが、本作にもその影響が見られます。タイトルにもなっている「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎 著)は言わずもがなですね。少年コペル君がさまざまな出来事や叔父さんとの対話を通してものの見方や社会の在り方、人との関わりなどについて考えを巡らせていくこの小説の精神性はこの映画の大きな柱になっています。
また、「失われたものたちの本」(ジョン・コナリー 著)は本作に大きな影響を与えているとされています。母を亡くした12歳のデイヴィッドが、父の再婚相手の大屋敷に移り住みそこで幻の王国に迷い込む―という大まかなあらすじは似ていますが、青サギのモデルとされているねじくれ男の描き方など本著と異なる部分こそ映画『君たちはどう生きるか』を読み解く大事なポイントになります。
この2冊は本作を理解するうえで外せない作品ですので、ぜひ読んでいただきたいです。小学校高学年以上でしたら十分楽しめる内容です。
〇母と子の物語
久石譲さんが手がけた音楽も本作を語るうえで外せません。メインテーマとも言える「Ask me why」は本作の重要なシーンで3回流れます。1回目は冒頭のタイトルバックのシークエンス、2回目は眞人が亡き母が彼のために残した「君たちはどう生きるか」の小説を読む場面です。一見地味にも見えるこの読書シーンが実はこの作品で一番のクライマックスではないかと思います。この本を読んだ直後から眞人の言動がガラッと変わりますよね。宮﨑監督自身が子どもの頃にこの本を読んで感銘を受けたそうなのですが、そこで受け取ったものを後世の子ども達にも残したいという想いが少なからずあったのではないかと想像します。序盤から終盤まで母と子の関係性が様々に形を変えて描かれる点にもぜひ注目してもらいたいです。
3回目の「Ask me why」がどの場面で流れるのかは、ぜひ本編を観てお確かめください!

映画『君たちはどう生きるか』を子どもたちはどのように受け止めたのでしょうか。今回も小学5年生の娘に感想を聞いてみました。2023年7月に一度観たきりなのですが、細かい描写までよく覚えているのにびっくりしました!
〇面白かったシーンは?
インコが捕まった眞人の前でてへぺろするところ!
(包丁を振りかざしながらおどけるところですね。コミカルな描写が新鮮でした!)
〇眞人が不思議の世界に行く前の、現実世界の場面はどうだった?
おばあちゃん達が缶詰に夢中になるのが犬みたいだった。
(そこ?!)
眞人が石に頭をぶつけるところがめっちゃ痛そう!
(たしかにあれは痛そう!)
眞人にカエルがうじゃうじゃ集まるのが自分だったら「ギャーーー!」と叫んじゃう。
(よほど印象的だったのか、周りの子ども達に感想を聞くとこの場面について話す子がとても多かったです。)
〇青サギについてはどう?
鼻の周りのニキビみたいなのがちょっと気持ち悪かった。
(たしかにちょっと不気味でしたね)
〇他に印象的だったことはある?
わらわらが可愛い!
(家族で行ったジブリ美術館でもわらわらの展示に大喜びでした。)
キリコさんの部屋の机の下で寝るとき、おばあちゃんたちの人形を触っちゃダメだよと言っていたけど、私だったら寝相が悪いから蹴飛ばしていると思う。
(笑!)
最後にインコ達と一緒に眞人たちが現実世界に戻るところ。鳥のフンがいっぱい落ちているのに夏子さんが容赦なく前に進むのがメンタル強いなって思った。お父さんはフンを嫌がっていた。
(これはなかなか鋭い視点!)
1度観ただけでは気づかないものもあるほど様々なモチーフが詰め込まれた作品です。お子さんの感想を聞くと新たな発見がきっとあると思います。
【作品情報】
『君たちはどう生きるか』
11/22(金)よりグランドシネマサンシャイン 池袋で1週間限定再上映
https://www.cinemasunshine.co.jp/movies/1209/
※11/29(金)からは『ルパン三世 カリオストロの城』がリバイバル上映(宮崎駿監督作品・通常版&IMAX®版予定)
紹介者 キムソニ
シネマサンシャイン 番組編成担当
https://www.cinemasunshine.co.jp/

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