小学6年生(東京都)Oさんの疑問

テレビドラマで若い人が記憶喪失になっていたのを見て、認知症とのちがいが気になりました。また、認知症を治せる薬はありますか?

国立精神・神経医療研究センター 大町佳永さん

どちらも記憶に問題が起きますが、その原因やなりやすい年代などはちがいます。認知症になるしくみはまだわからないことが多く、もと通りに治せる薬もありません。小学生のみなさんも認知症のことに理解を深め、周りの人にちょっとした声かけができるようになってもらえたらうれしいです。

原因・なりやすい年代がちがう

記憶喪失は若い年代ほど起きやすい

今回は国立精神・神経医療研究センターの大町佳永さんに聞きました。

テレビドラマなどでえがかれる記憶喪失は、専門的には「解離性健忘」といいます。急に名前や住所などを思い出せなくなる病気です。記憶に問題が起きるのは認知症も同じ。ただ、次のようなちがいがあります。

①原因 解離性健忘の原因は、事故や身近な人が亡くなるといった強いストレス。記憶をつかさどる脳そのものには、目に見える異常は起きません。一方で認知症は、多様な原因で脳の細胞がこわれて起こります。

②症状の出かた 解離性健忘は記憶を失っても、ご飯を食べる、本を読むといった日常生活は問題なくおくれることが多いです。一方で認知症は、そうした日常生活にも問題が出ます。

③なりやすい年代 解離性健忘は、若い年代に起きやすいといわれています。それに対して認知症は、年を重ねるほど症状が出やすくなります。

認知症は同じことを何度も聞く、財布やかぎを置いた場所を忘れるといった記憶に関することだけでなく、怒りっぽくなる、風呂に入るのをいやがるなど行動に関することまで、人によってさまざまな症状が出ます。

最初は本人にも「おかしいな」という自覚がありますが、症状が進むとそれもなくなっていきます。そうしてだんだんと、周りの人とうまくコミュニケーションがとれなくなります。

原因の7割ほどをしめるとみられるのが「アルツハイマー型認知症」です。脳の中で「アミロイドベータ」や「タウ」というたんぱく質が長い年月をかけてたまり、脳が縮んでいくと考えられています。もっとも、脳で何が起きるのかを直接確かめるのが難しく、「症状や検査から診断はできても、本当の原因や病気のしくみはまだわからないことが多い」そうです。

65歳以上の8人に1人が認知症

アルツハイマー型認知症とは別のものがたまって起きる「レビー小体型認知症」、脳こうそくや脳出血などが原因の「血管性認知症」など、認知症にはさまざまな種類があります。65歳以上の8人に1人がなっていると推計されています。

認知症はもと通りには治せない

認知症の治療では、脳の中で情報を伝える物質が分解されるのをおさえたり、神経の細胞を守ったりする薬が使われています。

さらに去年から、「レカネマブ(商品名レケンビ)」という新しい薬が日本で使えるようになりました。アルツハイマー型認知症の原因と考えられる脳の中のたんぱく質を取りのぞき、認知症の症状が進むのをおくらせることが期待されます。

去年から日本で認知症の治療に使えるようになった新薬「レケンビ」エーザイ提供

ただこの薬も、認知症をもと通りには治せません。解離性健忘の多くは後から記憶を取りもどすことができますが、認知症はそうはいかないのです。

「治すのは難しくても、リハビリや周りの人のケアなどで健康な生活を1日でも長く続けてもらうのが大切」と大町さん。糖尿病など他の病気で認知症が引き起こされることもあります。若いうちから食生活に気をつける、運動不足にならないようにするなどの心がけで、あるていど予防ができるそうです。

今年1月には、認知症の人が尊厳を保ちつつ、希望を持って暮らせる社会をめざす「認知症基本法」ができました。症状を相談しやすい「もの忘れ外来」も各地の病院にできています。

道路と歩道の色にちがいをつけるなど、認知症の人に優しいデザインを取り入れた福岡市地下鉄橋本駅の駅前広場=5月 ©朝日新聞社

ただ、「認知症の正しい理解は大人にも広まっていない」といいます。そこで、認知症になると経験することを旅行でたとえた『認知症世界の歩き方』など、わかりやすく伝える本やウェブサイトが出ています。認知症の人や家族に声かけや手助けができる「認知症キッズサポーター」を育てる講座を開く自治体もあります。(松村大行)

『認知症世界の歩き方』(ライツ社)

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(朝日小学生新聞2024年9月17日付)

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