家具転倒で人生暗転

一番倒れたのは本棚

犠牲者6435人を出した阪神・淡路大震災。負傷者は4万3792人に上り、今も後遺症に苦しむ震災障害者が多数います。主な障害は「両眼失明」「咀嚼及び言語機能の喪失」「神経・精神に著しい障害」「胸腹部臓器の機能障害で常に要介護」「両上肢や両下肢の用全廃」など、痛ましい限りです。

未来や人生を暗転させた負傷原因は、家具の転倒落下46パーセント、ガラス29パーセント、その他18パーセントで、一番多く倒れた家具は本棚で52パーセント、次いで食器棚34パーセント、洋たんす30パーセント、ピアノ10パーセント(複数回答)の順でした。

甘い固定が仇に

「固定していた家具が倒れた」というお宅を見せてもらいました。天井の突っ張り棒が外れ、大きな本棚が寝ていた息子さんを直撃、下肢骨折の大けがをしたそうです。洋たんすや食器棚も、L字金具と壁ごと横倒しになっていました。ご主人は「大地震なんか起きないと思っていて、かたちだけやって安心していた。考えが甘かった」とご自身を責めていました。

家具は作り付けが安全ですが、もし突っ張り棒を使うなら、天井に当て板をして、天井と家具を突っ張り棒で緩みなく止めます。さらに家具の両側を大きめのL字金具やビスで柱や壁裏の下地材に固定します。家具や家電品の転倒落下防止対策は「複数器具で複数個所を止める」ことがセオリーです。

下地材にがっちり固定

一般住宅の天井や壁には石膏ボードが多く使われています。石膏ボードは熱に強い反面、もろいのが弱点でビスが効きません。その壁を裏で支えているのが幅3~5センチの「下地材(木材又は軽鉄骨)」です。転倒防止金具は壁裏の柱や下地材にしっかり固定しないと危険です。

まずは市販されている「下地チェッカー」か、コンコンと壁を叩いて下地材の位置を確認します。その下地材や柱などに直接止めるか、天井や壁を木材などで補強し複数個所を複数のL字金具やビスなどでがっちり固定しましょう。

今では天井用の当て板(ベースボード)とセットで市販しているもの、冷蔵庫や電子レンジなどのような壁とのすき間対策用の転倒落下防止ベルトや、壁用アンカーもあるので、状況に合わせて選びましょう。

賃貸住宅だと壁に穴をあけるのは抵抗がありますが、最近の賃貸物件や公営住宅によっては、耐震ネジ穴について退去時の現状回復を免除するところもありますので、事前に貸主などと相談・確認されるとよいと思います。

天井補強で家具固定(筆者撮影)

山村 武彦(やまむら たけひこ)

防災システム研究所所長。東京都出身。実践的防災・危機管理の第一人者。1964年、新潟 地震でのボランティア活動を契機に、研究所を設立。以来50年以上、世界中で発生する災害の現地調査を実施。報道番組での解説や講演、執筆活動などを通して防災意識の啓発に取り組む。企業や自治体の社外顧問やアドバイザーを歴任。防災・危機管理マニュアルの策定など、災害に強い街づくりに携わる。座右の銘は「真実と教訓は、現場にあり」。

(朝小かぞくの新聞2025年1月20日付)