英語を使うこと以外は、日本と大して差はない

アメリカで働き始めて約2年。気がつけばあっと言うまであった。よく「日本で働くのとアメリカで働くのとではどんな違いがありますか?」と聞かれるのだが「英語を使うこと以外は、大して差はない」と言うのが正直な意見だ。アメリカでの仕事は、まず仕事場に来て、パソコンを立ち上げ、メールとTeamsに送られてきているメッセージをチェックし返信する。

これらの作業が一通り終わると、顧客から求められている資料をまとめたり、会議に出席したり、顧客と打ち合わせをしたりする。そして、休憩室では同僚と週末の予定について話をする。日本の仕事場とほとんど変わらない。そのため、英語が話せて日本で普通に仕事ができていればアメリカで働くことには何も問題ない。

アメリカで仕事をするには、どれくらいの英語力が必要?

「それじゃあ、アメリカで働くには、どの程度の英語力が必要ですか?」という質問もよく聞かれるが、これは非常に難しい。なぜなら、働く企業の種類や職種、部署によって求められる英語力が大きく異なるからだ。

例えば、アメリカの一般企業で働く場合、業務のほとんどが英語で行われるため、高い英語力が求められるだろう。しかし、日系企業では異なる。例えば、私が働いているのは日系企業のため、職場では日本語と英語がちょうど半分半分となっている。しかし、部署によっては日本人駐在者が多く、日本語の使用率が圧倒的に高いところもある。実際、アメリカに5年以上住んでいても英語で会話が10分も続かない日本人は珍しくない。

そのため、「どれくらい英語が話せたらアメリカで働けるのか?」という問いに対する答えは、「企業、部署、そして自分の仕事内容による」となる。

英語力よりも重要なこと

しかし、アメリカで働く上で実は英語力よりも、もっと重要なことがある。それは「日本人とアメリカ人の両方と同じようにコミュニケーション取ろうとする姿勢を見せること」だ。

いろいろな場面を見たり聞いたりしていると、日本人はどうしても日本人同士で固まってしまう傾向がある。日本人だけで打ち合わせを行い、ランチに一緒に行くのも日本人だけ。休憩室でも日本語で会話をしていると、アメリカ人としては少し不安を感じるようだ。

実際、アメリカ人の同僚と話をしていると「 ◯◯さんは、1年前にアメリカに来たけど今までほとんど話したことがない」「△△さんは、いつも日本人とばかり話しているから何を話しているか気になる」という意見をよく耳にする。

そのため、下手な英語で構わないから、アメリカ人ともコミュニケーションを取りたいという姿勢を見せることが重要である。もし話すのが苦手なのであればとりあえず「挨拶」だけでも良い。

アメリカでは、オフィスですれ違う際、ニコっと微笑んで Hello や Hi というのが当たり前。そのため、まずは挨拶をするという習慣を身につけることが大事である。

仕事場だけでなく、プライベートでも同じ。こちらが話したいという姿勢を見せれば「ママ友・パパ友」も作るのは簡単。

本音が分からないアメリカ人

「それじゃあ、アメリカ人と会話をする際の注意点は?」と聞かれたら、「フレンドリーに話していても陰で何を言っているかわからないから気をつけて」と私は言うだろう。

正直、「アメリカ人の本音はどこにあるのか分からない」と思うことが多々ある。日本人からすると「アメリカ人は比較的フレンドリーでジョークを交えて楽しそうに話す」という印象があるため、みんな仲良しに見えてしまうことが多いが、話を聞いてみると、お互い陰で文句を言い合っていることもあり正直かなり驚く。

嬉しそうにハグをして挨拶をしたと思ったら、相手が去るやいなや舌打ちをし「あの人は、ホント大嫌い」とボソリと言っているアメリカ人を見た時は正直ゾッとした。

「日本の本音と建前みたいだな。だけど、アメリカにはそんな文化ないだろう・・・」と思い、インターネットで調べて見ると・・・どうやらあるらしい。そしてアメリカの本音と建前は日本以上という意見も(泣)実に興味深いものだ。

就業時間に対する考え方の違い

また、アメリカ人と日本人とでは、文化や考え方が大きく異なるため仕事上、軋轢を生むこともある。例えば、アメリカ人は緊急な案件であっても業務時間が過ぎれば対応は翌日と考える人が多い。あるアメリカ人が “Even if the shipment is delayed, it is not the end of the world.”(仮に出荷が遅れても世界の終わりではない)と言っていたのが印象的だった。

確かにその通りだ。出荷が1回遅れただけで人生が終わることはまずない。しかし、それはそうだけど・・・と考えるのが日本人。緊急な案件が入れば残業をしてでも終わらせようとし、上司もそれを求めることがある。そのため、緊急な案件を無視して帰ってしまうアメリカ人を見ると日本人は「無責任」と思ってしまう。

一方で、アメリカ人からすると日本人は「真面目すぎ」と映る。どちらが良い・悪いというものではなく、ただ「お互い考え方が違う」というものなので、この溝を埋めるのは非常に難しい。

重要なのは柔軟性

こうした価値観の違いにより生じる問題を回避するためにはどうしたら良いか?

おそらく色々な考え方があると思うが、私の答えは「相手の考え方を理解し、自分の考え方も調整する」というものだ。違う言葉で言えば「他人を変えようとせず、柔軟性を持つこと」。

多くの失敗は「他人を自分の価値観に合わせよう(変えよう)」とするから生まれるのである。そのため、「相手ではなく自分を変える」という発想の転換が求められる。これは決してネガティブなことではない。なぜなら、自分の視野を広げ、新しい価値観を取り入れるチャンスなのだから!

また異なる文化を理解することで、自国の文化の良さを再認識することもできるだろう。

アメリカの図書館で行われたマジックショーにて。色々なイベントに参加してアメリカの価値観・考え方に触れることが重要。

藤井拓哉(ふじい・たくや)

 1984年生まれ。父親の都合で3歳~6歳までと、15歳~24歳までをアメリカのオハイオ州で過ごす。オハイオ州立大学、同大学院で教育学を学び、日本語の教員免許とTESOL(英語を母国語としない方のための英語教授法)を取得。帰国後は、宇都宮大学で英語講師を務める。数学、化学、生物学、物理学を英語で学ぶ「理数系英語」の講義を定期的に行い、2010年と2013年に学生による「授業評価アンケート」をもとに選ぶ「ベストレクチャー賞」を受賞。その後、上智大学、筑波大学などで英語講師を務めた後、2023年から家族でアメリカ暮らしを始める。著書に『たくや式中学英語ノート』シリーズ(朝日学生新聞社)、『MP3CD付き ガチトレ 英語スピーキング徹底トレーニング』シリーズ(ベレ出版)。TOEIC955点、TOEFL101点。

「たくや式中学英語ノート」全10巻

【著者によるYouTubeビデオ講義付き】

 中学英語の基本を学年別・単元別に学ぶ、書き込み式薄型問題集シリーズです。
 「中学生のときに英語が本当に苦手だった」と自認する著者がつくるテキストは、英文法を基礎の基礎から丁寧に解説し、豊富な問題で繰り返し英文を書かせるのが特徴です。前に習ったことの復習が何度も出てくるので、自分の弱点を知って、正しい英語を身につけることができます。

1巻をAmazonで見る
(外部リンク)

「たくや式 どんどん読める 中学英語長文」全4巻

【著者によるYouTubeビデオ講義付き】

 学年別の単語・文法を使ったオリジナル長文(会話文・メールの文章・ブログの文章・講義など)を各巻11話収録。どの学年の方も、無理なくどんどん長文が読める仕組みになっています。定期テストや入学試験でよく出題される穴埋め問題や、文脈把握問題のほか、たくや式ならではの、「英語の文法を自分の言葉で説明できるか」を問うたくさんの問題を収録。

1巻をAmazonで見る
(外部リンク)

※本サイトに掲載されるサービスを通じて書籍等を購入された場合、売上の一部が朝日学生新聞社に還元される事があります。