理化学研究所などが開発した国産の量子コンピューター ©RIKEN Center for Quantum Computing

高速で大量に計算、薬の開発などに活用の期待

Q どんなコンピューター?

A 量子の性質をうまく利用

解説者 瀧澤美奈子(科学ジャーナリスト)

各国が、量子コンピューターの開発を進めています。実用化されれば、今までとは比べものにならないくらい速く、たくさんの計算ができそうです。薬の開発や材料の設計、物流、金融、暗号の解読、AI(人工知能)など、はば広い活用が期待されます。

量子力学とはどんなものでしょう。みなさんが髪の毛の太さの10万分の1ほどに小さくなったと想像してみます。そこは原子や電子、光のつぶの光子など(これらをまとめて量子と呼びます)が、「量子力学」という物理法則にしたがい、ふるまう世界です。量子ははっきりと見えず、ぼやっとしています。状況により波のようにも、つぶのようにもふるまいます。

量子には、一つでコインの裏表のような複数の状態を同時にとれる「重ね合わせ」や、二つの量子が「量子もつれ」になり、一方を測った瞬間、もう一方の状態が決まるといった性質があります。こうした現象を使い、作ろうとしているのが量子コンピューターです。

Q 今のコンピューターとのちがいは?

A 実用化には技術的な課題も

解説者 瀧澤美奈子(科学ジャーナリスト)

家庭や学校にあるパソコンや、高度な計算ができるスーパーコンピューターなどは、情報を0か1のビット(情報の基本となる単位)で表しています。一方、量子コンピューターの基本単位は量子ビットです。0と1を同時に「重ね合わせ」できます。

たとえば3ビットであれば、今のコンピューターでは「1、0、1」などと、1回で一つのデータを表現します。ところが、量子ビットではそれぞれのけたに0と1を同時に重ねられるので「0、0、0」「1、0、0」……「1、1、1」と、2を3回かけた数、つまり8個のデータを同時に表し、一度に計算できるのです。量子ビットが50なら、2を50回かけた数(約千兆個)の情報を、同時に表現して計算できます。これが、高速の計算が期待できる理由です。

©朝日新聞社

量子ビットを実現する手段として、超伝導回路、イオン、光子、半導体などさまざまな方法が研究されています。しかしいずれの方法でも量子ビットが不安定で、外からのわずかな影響で状態がくずれがちです。熱の影響を受けやすい場合もあり、超低温に冷やすことも必要です。

計算中に発生しやすいエラー(まちがい)を直したり、安定したビットを数億個単位に増やしたりする技術も不可欠です。実用化には、まだ多くの技術的な課題があります。

活用が期待される分野

効率よく荷物を運ぶ物流や、お金に関する商品をあつかう金融などの分野で活用が期待されます

活用が期待される分野 物流(写真はイメージ) ©朝日新聞社
活用が期待される分野 金融(写真はイメージ) ©朝日新聞社

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量子力学100周年 生活を支える一部に

1925年にドイツの物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルクさんが、量子力学の元となる方程式を発表しました。それから100年となる2025年は、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)によって「国際量子科学技術年」と定められました。

この100年の間に量子技術は半導体、MRI(磁気共鳴画像法)、レーザー、原子時計など、私たちの生活に欠かせないものになりました。量子コンピューターもやがてこの列に続くでしょう。まだ技術的な課題はありますが、時代を大きく変える力になるにちがいありません。

解説者
瀧澤美奈子
科学ジャーナリスト

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(朝日小学生新聞2025年4月19日)