――前橋シネマハウスの成り立ちについて教えてください。

開館は2018年の3月です。前橋シネマハウスの前身は前橋市が管理をする市営の劇場で、上手く活用されていないという課題がありました。

当時の私は父が経営していた映画会社「群馬共同映画社」で、群馬県内の映画配給のお手伝いをしていたのですが、課の担当者が私のもとに尋ねてきまして「劇場の興行運営を引き受けてくれないか」と。

その時は断りました。もともと映画がすごく好き、というタイプではなかったんです。映画館で働いた経験や劇場運営のノウハウもないですし、シアター経営の苦しい現状も知っていました。

そんな中転機になったのは呉美保監督の「きみはいい子」という1本の映画でした。

虐待やネグレクト、認知症の独居老人といった日本の社会問題を題材にしたオムニバス映画なのですが、子どもたちや弱者が希望をもって懸命に生きようとする姿に感動し、同じ群馬県内の渋川市で上映会を開催したんです。実行委員会の組織づくりから始めて、渋川市民の方に協力してもらい、市民会館での上映を果たしました。

渋川市は人口が5万人なのですが、1000人を超える来場に成功し、さらに子育てボランティア団体や児童相談所からも上映の依頼が殺到するなど、上映会は大盛況に終わりました。その時「こういう映画を上映できるならミニシアターを運営するのもいいかもしれない」と思い、前橋市からの劇場運営の話を引き受けたんです。

声を出しても、イスのうしろにかくれてもOK

親子から支持される映画館に

――前橋シネマハウスならではの特長はありますか?

こどもたちに映画を観てもらう「こどもシネマハウス」は全国的にも珍しい取り組みだと思います。私がこどもだった頃、祖父と父が親子映画の上映会をよくしていたんです。ホールが満員になるほど人気で、よく私もついていってました。

そんな体験もあって2018年の開館と同時に始めたのですが、当時はただ子ども映画をセレクトするだけで、やってみても全然集客ならずでして。オープンしたばかりでバタバタしていた事もあって、一度止めてしまったんです。

その後も「こどもシネマハウス」への思いは消えず、コロナ禍をきっかけに2021年にもう一度チャレンジしました。

アイルランドのアニメ映画「ウルフウォーカー」を上映したのですが、絵本から出てきたような美しいアニメーションが子どもたちから好評でした。また、この時は「声を出してもOK」「怖かったらイスの後ろにかくれてもOK」など、子どもたちが映画を観やすいルールをつくり、事前に告知しました。近隣の幼稚園などに案内したら喜んでもらえて、その時確かな手ごたえを実感しました。

こどもシネマハウスのチラシ。昔なつかしいアニメも。

2023年からもう一度「こどもシネマハウス」を始め、今日までずっと続けています。作品を変えるのは2か月に1回程度ですが、「ガンバの冒険」や「パンダコパンダ」など昔のアニメを上映する事が多いです。今どきの人気作品でなくても子ども達は楽しんでくれますね。

――今後、どのような映画館になっていきたいですか。

「ミニシアターらしくないミニシアター」にしたいです。自分もそうでしたが、ミニシアターって敷居が高いと思うんです。映画好き、映画マニアじゃない人でも気軽に入れる映画館にしたいですね。あと、こどもシネマハウスの取り組みも継続していきたいです。
作品によって集客に差があるので、もっと来てくれる子どもを多くしたいなと思います。

映画館のロビー。スタッフ手作りの宣伝ボードが好評です

――最後に、前橋シネマハウスで上映されるおすすめの作品を教えてください。

塚本連平監督の「35年目のラブレター」がおススメです。笑福亭鶴瓶さんと原田知世さんが主演の映画で、前橋シネマハウスでは7月26日から8月15日まで上映しております。

戦時中に生まれて十分な教育をうけることができず、文字の読み書きができない65歳の西畑保(笑福亭鶴瓶)と、いつも彼のそばにいる最愛の妻・皎子(原田知世)。

読み書きができないことをずっと隠していた保でしたが、ある時皎子に気づかれるんです。

皎子は保の手をとり「今日から私があなたの手になる」と告げました。どんな時も寄り添い支えてくれた皎子に感謝の手紙を書きたいと思った保は、定年退職を機に夜間中学に通いはじめる、というお話です。

「出来ないをみんなで補い合う」というのがいいですね。西畑夫婦は利己的ではなく利他的で、常に相手のことを思って生活しています。個人主義が進む今の時代だからこそ、多くの人に観てほしいなと思います。

▼前橋シネマハウスの公式サイトはこちらから
https://maecine.com/