世界を舞台に活躍するピアニストの角野隼斗さん(29歳)は、あっとおどろく方法でピアノをひいたり、ユーチューバー「かてぃん」として音楽の楽しさを発信したりしています。ゴールデンウイークに東京で開かれる「こども音楽フェスティバル 2025」に出演する角野さんのもとを、ピアノが大好きな朝小リポーターたちがたたずねました。※4月29日付の朝日小学生新聞で紹介したインタビューのロングバージョンです(構成・別府薫、大野由香子)
自由な発想には「遊び」が大事
かずまさん(小3) 去年、角野さんの誕生日の日本武道館リサイタルに行きました。「ボレロ」が特にすごかったです。1人で演奏しているようにはきこえないです。

――ありがとう。ボレロってもともとオーケストラの作品で、本当は何十人もで演奏します。1人で演奏するときに気をつけているのは、オーケストラが持っているひびきを再現すること。オーケストラって本当にたくさんの楽器がある。たとえばボレロも、ここはスネア(とピアノをひきながら)、ここはチェロとコントラバス、ここはクラリネットやオーボエがやっているのね。アップライトピアノとグランドピアノを使い分けて、どれだけ多彩な音色を出せるか、音色のちがいをイメージしながらひくか、ということを大切にしているかな。
これはピアノ作品でも同じことがいえる。ピアノって音がたくさんあるから、音の一つひとつをどういう音色でひききるか、ということがすごく大事です。
手とピアノが一体になる瞬間、最高に楽しい
ゆいさん(小6) 角野さんはいつも楽しそうに演奏していますが、一番楽しい瞬間は? 苦しいときや、つらいときはありましたか? 私は、指が動かなくてうまくひけないときは、泣きたくなります。そんな気持ちになることはありますか?
――ありますよ。もちろんですよ。やっぱり、すぐにはひけるようにならないからね。
うまくいくときは、手とピアノが一体になったようなかんじで、自分自身が音楽の中にダイブしているというか、つかっている感覚になる。そうやって演奏し終えた瞬間っていうのは、ピアノをやっていて一番楽しいかもしれない。

だれかとやる音楽の楽しさって、すごく大きい。オーケストラとピアノでコンチェルト(協奏曲)をひくときも、めちゃくちゃ気持ちいいですよ。
でもリサイタルが始まる前は、だいたいつらいよね。だってさあ、考えてみて。ひとりで2千人もの前に出ていくのはこわくない? だから行きたくないと思うんだけど、始まって1分くらいすると、音楽に入りこむことができるようになって、終わる瞬間は楽しい。そのくり返しで生きていますね。
たいせいさん(小5) ユーチューブでトイピアノやけんばんハーモニカといっしょにピアノをひいていますが、なぜそういうことを思いついたのですか?
――あんまり覚えていないんだけど、おもしろそうだなと思ったんだよ。
ちょうど大学を卒業するころで、論文を書き終わり「ああ自由だ」って、新しい楽器を使ってみたくなって。トイピアノをたまたま見つけたから買ったの。譜面台の上に置いて右手でトイピアノを、左手でグランドピアノをひいて、しばらく遊んでいたら、アイデアがだんだん思いうかんできた。あんまり答えになっていないけど、遊ぶことが大事ですよね。
角野隼斗(すみの・はやと)

1995年7月14日生まれ、千葉県出身。東京大学大学院情報理工学系研究科1年だった2018年、日本最大規模のコンクール、ピティナ・ピアノコンペティションで特級グランプリを受賞。21年にはショパン国際ピアノコンクールでセミファイナリストに。24年10月、世界デビューアルバム「Human Universe」を発売。いまはアメリカ・ニューヨークにくらす。
こども音楽フェスティバル 2025

「こども音楽フェスティバル 2025」は5月3~6日、東京・赤坂のサントリーホールなどで開かれます。角野さんが出演する3公演などのオンライン配信チケットも販売中。会場では、かてぃんピアノをひくこともできます。くわしくは公式サイト(https://www.kofes.jp/)で。
かてぃんピアノを貸し出す「アップライトピアノプロジェクト」は、5月1日から第2期の参加団体を募集。https://cateenup.piano.or.jp/