
産婦人科医の高橋幸子さんは、「サッコ先生」の愛称で年間160回もの性教育の講演を行っています。子どもたちを性感染症や虐待から守ろうと奮闘するサッコ先生に、活動を始めたきっかけや、家庭での性教育のヒントを聞きました。2回に分けて紹介します。(文 性教育サイト「命育」編集部・畑菜穂子)
性感染症や虐待から子どもを守りたい
私が子どもたちへの性教育を志したのは、大学の医学部6年生のときです。ボランティアで女子少年院を訪れた友人から、少年院にいる多くの少女が性感染症にかかっていると聞いたことがきっかけでした。
性感染症は予防できますし、感染しても治療できます。しかし、どちらも本人に正しい知識がなくては実現しません。性感染症の一種クラミジアは将来の不妊症につながる危険性がありますが、学ぶ機会がなければ知らないままです。私自身、きちんと教わってこなかったなと気づいて、「若い人たちに性教育を伝えていかなくては!」という思いを抱きました。
でも、産婦人科医として埼玉医科大学病院に勤務し、学校で性教育の講演ができるようになったのは7年目のことでした。しかも最初は「月に3回まで」と回数が決まっていました。病院ではチームで診察をするため、私が外で講演をすると、ほかのドクターにしわ寄せがいってしまうからです。13年目に同院の地域医学・医療センターに異動し、回数の制限なく講演の依頼を受けられるようになって、年々増えていき、2021年は160回行いました。

気づかずに性的虐待を受ける子も
今は埼玉医科大学病院思春期外来のほか、複数のクリニックで週2、3回勤務し、婦人科外来や妊婦健診などをしながら性教育の活動をしています。
思春期外来は、生理痛に悩む中高生が来院するかなと予想して立ち上げました。でも、実際には、意図しない妊娠や性的虐待にあった子どもたちが訪れるケースが多いです。
中学校で私の講演を聞いた女子生徒が受診したこともありました。その子は講演の後、「自分が家でお父さんとしていることが、赤ちゃんができる行為だとわかった」と養護教諭に相談。児童相談所に保護されて来院しました。
彼女はずっとハイテンションで話していました。「今から診察をするよ。怖かったり、痛かったりしたら、診察を途中でやめるから言ってね」と言いながら私が少し触れると、わっと泣き出してしまって。平気そうにふるまいながら、すごく緊張していたのだとわかりました。
10年前からは、「SCAP(埼玉医科大学子ども養育支援)」チームにも加わっています。児童虐待について、ソーシャルワーカーや看護師、医師らが症例を共有しながら対策を考えています。まずは地域の大人が性的虐待の存在を知ることが、子どもたちを守る第一歩につながります。活動を始めたころと比べると、少しずつ理解が広がっていると感じます。
自分の体を知ることで未来を選択できる
性教育の講演を通じて、子どもたちには「人生にはさまざまな選択肢があり、どうするかは自分で選ぶことができる」ということを知ってもらいたいです。パートナーとの出会い、出産、育児、仕事……。そのためには、自分の体や性についての知識が必要です。ほんの1時間程度の関わりですが、子どもたちが「もっと知りたい」と、その先の学びにつながるような講演を心がけています。
性教育の必要性が見直され、取り組んでいるご家庭も増えていると思います。ただ、我が子だけが正しい性の知識を持っていても、他の子どもや地域の大人がそうでなかったら、子どもを守りきれないのではないでしょうか。保護者のみなさんにも、社会全体で子どもを守り育てていくという意識が広がることを願っています。
※後編では、今の小学生が性についてどのくらい知っているか、実態をふまえたうえで、家庭での会話のヒントを教えてもらいます。

月1回、性教育に携わる人から話を聞き、子どもと性の話をするヒントを探っていきます。感想や取り上げてほしいテーマなどのリクエストはこちらから
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