性教育講師・思春期保健相談士の中谷奈央子さんは、「にじいろ」の名でSNSでの情報発信にも力を入れています。養護教諭の経験を生かし、子どもたちに必ず伝えていることを聞きました。(文 性教育サイト「命育」編集部・畑菜穂子)

なかたに・なおこ フリーランスの性教育講師。思春期保健相談士。元養護教諭。著書に『10代の妊娠 友だちもネットも教えてくれない性と妊娠のリアル』(合同出版)

きっかけは 「二つの後悔」

もとは公立高校で養護教諭をしていて、出産を機に退職しました。養護教諭をしていたころは、生徒たちに「ここでは性や体に関する話をしても大丈夫」と思ってもらうために、性に関する書籍を保健室に置いていました。

相談したいことがあって保健室を訪れても、すぐに話してくれる子はほとんどいません。「頭が痛い」と言っていた子が性に関する本を見つけて打ち明けてくれるなど、何かをきっかけに話してくれるケースが多かったです。「実は妊娠して、夏休みに中絶をした」と事後報告した子もいました。

養護教諭だったころに、生徒たちからもらった手紙

子どもたちの性の現状を他の教員も知る必要があったのに、当時の私はベテラン教員を前に萎縮してしまい、情報共有ができませんでした。悩みを打ち明けてくれた子に何もできなかったこと、現状や課題を大人に伝えられなかったこと。この二つの後悔が性教育の活動を始めたきっかけであり、私の原動力になっています。

身を守る合言葉 「NO・GO・TELL」

今は小学生から高校生までを対象に性教育の講演を行っていますが、この1、2年くらいは大人に話す機会も増えています。

「性教育=性行為や生殖に関すること」と思う方もいますが、実は人間関係や安全など、さまざまなテーマを包み込んでいるのが性教育です。子ども向けの講演で年齢を問わず話しているのは、自分の体と心を守るための方法「NO(嫌と言う)・GO(その場から離れる)・TELL(誰かに話す)」です。アメリカ発祥の「CAP(子どもへの暴力防止)プログラム」*で呼びかけている言葉で、人と人との「同意」の大切さとともに伝えています。

性暴力や性犯罪にもかかわる話なので、伝え方を間違えると子どもたちをこわがらせてしまいます。私の場合は、クイズを出すなど、楽しい雰囲気になるように心がけています。

例えば、自分の体の「プライベートゾーン」についての質問です。

「あなたのプライベートゾーンに触ってはいけないのは誰でしょう? 1.不審者 2.友だち 3.おうちの人」

少しずるいですが、正解は「①~③の全部」。自分の体は自分だけのものであると伝え、「あなたが嫌だと思ったり、一緒にお風呂に入りたくないと思ったりしたら、たとえ家族にでも言っていいんだよ」という話につなげています。

また、思春期になっていきなり「性的同意が必要」と話しても、子どもには響きません。性的な内容に限定せず、「消しゴムを貸して」「いいよ」といった日常の何げないやりとりでも同意の考え方は伝えられます。ご家庭でも、幼いころからこうした会話を大切にすることで、子どもが自分の話としてとらえられるようになるでしょう。

子どもの気持ち、聞いていますか?

子どもがいざというときに「NO」と言えるようにするには、日常のやりとりで成功体験を積み重ねることが大切です。

家庭できる方法は、二つあります。一つは「子どもに『NO』を2回言わせない」こと。遊びであっても、子どもが「イヤだ」「やめて」と言ったらすぐにやめましょう。これは、モデルでタレントのSHELLYさんが呼びかけています。

もう一つは、子どもの「NO」を否定せずに、受け止めることです。例えば「明日のプールの授業がイヤだ」など、何げないひと言を子どもが発したとき。保護者が「そんなことくらい我慢しなさい」と頭ごなしに否定すると、子どもは「嫌なんて言わなきゃよかった」と話したことを後悔し、その後の信頼関係にも影響してしまいます。

「嫌なんだね。何かあった?」と受け止めると、子どもも理由を話しやすくなるはずです。ふだんから子どもの話にしっかり耳を傾けることで、保護者が「信頼できる大人」になれるのだと思います。

とはいえ、我が子となると難しい面もありますよね。我が家には小学校5年生の娘と2年生の息子がいますが、ついいろいろと口を出したくなることもあります(笑い)。自分が間違った対応をしたと思ったら、「さっきはごめんね」と伝えるようにしています。

家庭では、「性教育をしよう!」と意気込んで話すことはほぼありません。自宅に性に関する絵本や書籍を置いて子どもが好きに読めるようにする、性の話につながるきっかけを見つけたタイミングで伝えるなど、日常生活と地続きにあるものとして考えています。

最近は性に関するすばらしい書籍や絵本が出ていますが、自宅に置いても子どもに関心がなければ読まないケースもあります。その点、漫画なら子どもも親しみやすいと思います。例えば『マンガ おれたちロケット少年(ボーイズ):知ってる? おちんちんのフシギ』『マンガ ポップコーン天使(エンジェル):知ってる? 女の子のカラダ』(どちらも、子どもの未来社)など。性教育の漫画ではありませんが、生理やジェンダーなども扱っている『こっちむいて!みい子』(小学館)もおすすめです。

月1回、性教育に携わる人から話を聞き、子どもと性の話をするヒントを探っていきます。感想や取り上げてほしいテーマなどのリクエストはこちらから

https://www.asagaku.com/sex-ed.html

*CAPプログラムは、日本ではNPO法人「CAPセンター・JAPAN」が普及活動を行っています。

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