
小児科専門医で医学博士の工藤紀子さんは、家庭でできる性教育の第一歩として、子どもと「うんち」の話をすることを勧めます。なぜ必要なのでしょうか? どう話せばいい? ポイントを教えてもらいました。(文 性教育サイト「命育」編集部・畑菜穂子)

健康のバロメーター
私が「うんちの話は性教育の入り口」と考えるようになった背景には、学校のトイレでうんちをできない子どもたちの存在があります。理由はさまざまありますが、その一つが友だちに「汚い」とからかわれるのが嫌だからだといいます。
排泄は自分の意思と関係なく、生きていれば自然に起こること。子どもたちがそう考えられるようになれば、成長につれて起こる心や体の変化も同じように受け止められるはずです。
うんちは健康のバロメーターでもあります。でも、腹痛でクリニックを受診する子に「いつうんちが出たの?」と聞いても、答えられないことが多いです。ご家庭では、ぜひ「いつ、どのようなうんちが出たのか」を日常的に話すようにしてください。
このときに肝心なのは、保護者が「汚い」「くさい」という言葉を使わないこと。子どもの便のにおいが気になったら「体調が悪いのかな?」「しばらくうんちが出ていなかったのかな?」と聞くといいですね。
普段から家庭でうんちの話をしていないと、「なぜそんなことを聞くんだろう」と戸惑うお子さんもいるかもしれません。その場合は、「◯◯が健康かどうかを判断するためだよ」と伝えるといいでしょう。
「恥ずかしい」「エロい」ではなく
性について知ることも「恥ずかしい」「エロい」ものでなく、自分の体を守ることであり、大事にするためでもあると知ってほしいです。
『ようこそ!あかちゃん せかいじゅうの家族のはじまりのおはなし』(大月書店)のような絵本で、自分の体の構造がどうなっているのかを確認するのもいいでしょう。この本は、赤ちゃんができるしくみに加えて、体外受精や養子縁組、同性カップルなど多様な出産や家族のあり方も描かれているので、おすすめです。

子どもの「ありのまま」を受け入れる
私には中学生の娘と小学生の息子がいますが、家庭ではうんちや性のことなどを日常のやりとりと区別せずに話しています。
娘が小学3年生のころ、私と娘と、娘の友だちの3人で図書館に行ったときのことです。性教育の本を手にした娘の友だちが「見て! 何かいやらしいよね」と言うと、娘は「全然いやらしいことじゃないよ。自然に起こることなんだよ」と答えていました。私は普段から子どもたちに「成長とともに体は変化するよ。不安になるかもしれないけれど、成長しているあかしだからね」と伝えていますが、娘がしっかり受け止めてくれているとわかりました。
性の話にかかわらず、子育てで私が大切にしているのは「子どものありのままの姿を受け入れること」です。親子とはいえ別の人間ですから、考え方や価値観は異なります。
我が家のケースで言うと、娘に「ピアノを辞めたい」と泣かれたことがありました。私の正直な気持ちは「何年もやっているから、できれば続けてほしい」でしたが、ぐっと飲み込んで「そっか、辞めたいんだね」と答えました。
すると翌日、娘は「とりあえず発表会まではやる」と言い、今もピアノを続けています。「嫌なら辞めてもいい」と思えることは、子どもにとって大事なのかもしれません。子育てに正解はありませんが、本人の気持ちや意向を尊重すると意外とうまくいくのではないかと思います。

月1回、性教育に携わる人から話を聞き、子どもと性の話をするヒントを探っていきます。感想や取り上げてほしいテーマなどのリクエストはこちらから
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